心の鍵はここにある
「俺も一緒に行く、松山」
話は意外な方向へ向かっていく。
逆に断られる事を想像していたのに、一緒に帰省するなんて、思ってもみなかった。
「.……いえ、話をしに帰るだけなので、私一人で大丈夫です。
ただ、付き合ってる人の写真を見せろと言われる可能性があるので、写真、適当にラインして下さい」
「それなら、一緒の写真だな。でもここじゃ撮れないな、暗すぎる。
やっぱり、里美の部屋の方が信憑性あるんじゃないか?」
そう言われたら言い返せない……。
下唇を噛みながらそっぽを向く私に、先輩は嬉しそうな声で帰宅を促す。
「さ、そうと決まれば里美の部屋に行くぞ?」
「……え?」
「だって、写真撮るんだろ? ほら行くぞ!」
先輩は、私の手を引いて歩き始める。
……ニセカレ、本当にやる気なんだ。
「付き合い始めたばかりで部屋に上り込むのって、期待していいんだろ?」
「……ニセカレさん、写真撮ったらお引き取りください。そうじゃないなら部屋に入れません」
「えー、彼氏に対して冷たいなぁ」
「彼氏ではありません、ニセカレです」
「里美、ツンデレだからなぁ、部屋でデレろよ?」
「デレませんし。写真撮ったら帰って下さい」
「……なんか、懐かしいな、こんな言い合い」
先輩が、ふと急に過去を振り返る。
そうだ、初対面で言い合いになったんだっけ。私は口をつぐみ、先輩の反応を待つ。
先輩は、急に黙り込んだ私の繋いだままの右手を引き、立ち上がる様に促した。
私も釣られて立ち上がると、バランスを崩してしまい、そのまま先輩の胸に……。
先輩は、右手を私の背中に回して、そっと抱きしめた。
「……信用されていないのはよくわかった。でも、言わせてくれるか?
十二年前のあの言葉は……。彩奈に俺の気持ち、知られるのが恥ずかしかったからであって……」
「もういいです、今更だし」
先輩の言葉を遮る。
そして、私は先輩の胸に手を添わせると、思いっきり突き出して抱擁から逃れた。
これ以上聞いちゃダメだ。これ以上、踏み込んで来ないで。私の心が完全に壊れてしまう……。
「約束して下さい。お互い、偽カレ偽カノをしている時以外のスキンシップは辞めて下さい。
心臓が持ちません」
「……なら、偽カレ偽カノの時ならいいんだな?」
「……はぁ? スキンシップも限度がありますから。調子に乗らないで下さい。
……行きますよ」
結局は、先輩の言いなりになってしまう。
私達は、私の部屋へ向かった。