心の鍵はここにある
先輩の気持ち
先輩が帰ってから、暫くして漸く我に返った私は、帰省する為に航空会社のホームページから旅行パックの申し込みをした。
と同時に、さつきと実家の母にも飛行機の予約が取れた事を伝え、さつきに空港へ迎えに来てもらう様にお願いすると、二つ返事で了承してくれた。
高校時代、さつきが憧れていた一つ年上の高松先輩と今でもお付き合いしているさつき。
先月結納を交わして正式に婚約したとこの前連絡を受けたので、今回の帰省でお祝いの品を渡せる様に準備を進める。
先輩は、あれから家に着いたと連絡があったけど、私は抱きしめられた事でパニックに陥り、さつきと母に連絡を入れた後は電源を落としていた為、メッセージに気付いたのは翌朝だった。
今更ながら、返事に困り……。
申し訳ないと思いながらも既読スルーしてしまった。
結局昨日、春奈ちゃんと色々話をしたけれど、昨日の朝の女性の話には触れなかった。
春奈ちゃんも、私の部屋に興奮して忘れていたのだろうけれど……。
先輩も、何も言わなかった。
あの女の人、先輩とどんな関係なんだろう……。
私は先輩の周りにいる女性と比較にならない位見た目も劣っているから、彼女だと言っても信用されないだろう。
でも先輩は、何故そんな私に拘るのかがわからない。そしてあの女の人の視線……。
先輩が私を名前で呼ぶまでは、人を馬鹿にする様な蔑む視線だったのが……。
私の名前を呼んだ途端、値踏みして敵視する様な鋭い視線に変わったのは、いくら鈍感な私でも気のせいではないとわかる。
先輩、あの女の人に何を言ったんだろう……。考えてもわからない。
あの女の人は先輩の事が好きなのだろうか。
それとも、昔みたいに誰も相手にしない癖に私を名前で気安く呼んだから、私に嫉妬しているのか……。
どちらにしても、一度先輩に詳しい話を聞かない事には、どうしようもない。
でも、話を聞く前に、あの女の人に会ってしまったら……?
何だかあの人から嫌がらせを受けそうな気がする。
自分に自信がないだけに、被害妄想だけは一人前だ。
溜息を吐きながら部屋の時計を見ると、もう九時半を回っていた。
今から洗濯をして、部屋の掃除をしていたら、いい感じでお昼になる。
お昼ご飯、何にしよう……。昨日作ったコロッケは、結局全て昨日のうちに消化してしまっている。
冷蔵庫の中の食材と、実家から送られて来た野菜とで有り合わせのものを使うしかない。
急遽決まった帰省なので、極力出費は避けたい。
きっと実家に帰ると、無理矢理呼び寄せたからと母が交通費を出してくれるだろうけど、出来る限り甘えたくない。
現在祖父が入院しているので、出来ればそちらに回して欲しいけど、母からもし交通費を渡されたら、ストレス預金の口座の足しにしよう。
そう決めれば、少しスッキリ。
よし、掃除の続きだ。掃除機を洗面所からあてようと、移動していると、スマホが光った。
先に掃除を済ませてからチェックしようとそれを無視して掃除に集中する。
洗面所の床、トイレ、キッチン、部屋と、順番に掃除機をかけて行く。
掃除機を片付けて、テーブルの上に置いていたスマホを取り上げ、チェックをすると……。
メッセージの主は、先輩だった。