心の鍵はここにある
『来週末、俺も松山に帰る』
……なんかもう、色々とめんどくさい。別に一緒に帰省する訳ではないからスルーしよう。
時間や便名も知らせてないし。
私はメッセージ通知のみ確認して、メッセージ欄を開かずに既読を付けない。
なので先輩が、このメッセージを私が開かなければ気づいていないと思うはずだ。
スマホを放置して、他の事に手を付ける。
洗濯物を干したり、風呂場の掃除をしたりしていると、お昼を回ったらしく、お腹がいい感じに空いてきた。
汗もかいたので、そのまま服を脱ぎ、シャワーを浴びて着替えも済ませ、簡単に昼食を作る。
こんな時は気ままな一人暮らし、好きに出来るのはありがたいと思う。
有り合わせの食材で、適当に作った食事を済ませると、帰省の準備を始めた。
いつもは土曜日の午前中の便に乗り、日曜日の夕方の便で帰る様にしているのだが……。
今回は、土曜日の始発便で松山に帰る予定だ。
こちらを出る時間が早いせいで松山に到着するのが九時前後になる予定なので、午前中さつきと会い、ブランチを楽しみたい。
そんな私にさつきは、二つ返事でOKの返事をくれた。
宿泊は、ビジネスホテルでも一番ランクの低い、でも利便性を考えて路面電車沿いにある場所を選んだ。
両親が高松から松山に戻って来て会うのが土曜日の午後からなので、先にチェックインして荷物を置いてから合流。
祖父のお見舞いは、日曜日の午前中に行き、帰りは午後からの便。
ギリギリの予約で空席がなくなっていた為、いつもとは違う便だけど、案外日中に帰る便の方が空きも多い。
なので今回は、予約も簡単に取れた。先輩とは多分、同じ便にならないだろう。
先輩の言動が理解出来ないうちは、余り側に居ない方がいい。
下手に振り回されたくないし、それによって嫌な気持ちになったり、傷付きたくない。
少しでも、距離を置いて接していなきゃ、いつの間にかまた、先輩のペースに巻き込まれる。
それだけは、避けたい。
大体、先輩が私の事を好きだなんてあり得ない。
彩奈先輩に、あれだけはっきりと『里美だけは無理』って言い切ったんだ。
昨日だって、結局言い訳もしなかった。
……言わせなかったのが正しいけれど、途中で私が遮っても、その後は結局何も言ってくれなかった。
やっぱり、私の事を好きだなんて、信じちゃダメだ。
見た目はもちろんの事だけど、学生時代から先輩は漢気がある。