心の鍵はここにある
こうと決めた事はやり通す、ブレない信念を持っている。きっとみんな、先輩のそんな所に惹かれるのだろう。
もう、傷付きたくないから。だから、私からは何も言わない。先輩の言葉は、信じない。
自分を守る為に、幾重にも心を閉ざす。
私は、何も考えずに帰省の準備を進めた。
* * *
日曜日に雨が降り、森林浴に行くつもりだったのに行けなくて、私は部屋でハンドメイド作品作りに勤しんだ。
そして、月曜日。
相変わらず先輩は私のマンションのエントランスで私を待ち伏せている。
時間をずらしてみようと早目に出たのに、先輩は私を待っている。一体、この人は何時からここにいるの?
私に気付いた先輩は、バツが悪そうな顔をしたけれど、構わずに声を掛けて来る。
「おはよう」
「……おはようございます」
お互いにぎこちない。
「……行くぞ」
先輩はまた、私の右手を取り、握りしめて歩き始め様とした。何、この人、マジでストーカー?
「……先輩、いつからここで待ってたんですか?」
私は先輩の手を振り払い、立ち止まったまま先輩に質問するも、私の問いに先輩は答えない。
いつもより一時間早く部屋を出たのに、最寄駅が一緒とは言え、エントランスにいること自体、信じられない。
「さっき。実は俺んとこ、ここの向かいのマンションなんだよ」
イタズラがバレた子供の様な表情で先輩が指差したのは、私の住むマンション向かいに建つ、うちと同じ様なマンションだ。
「ちなみに俺のトコは二DKな。一層の事手っ取り早く一緒に住むか?」
「……はぁ? 何言ってるんですか? 一緒になんて住みませんよ。
でも本当にお向かいのマンションにお住まいなら、先日再会した日の帰宅報告のメッセージ、タイムラグありすぎるじゃないですか?」
「あー、あれな。こんなに近所だと思わなくてさ。かなり浮かれてたんだ。
すぐにラインして引かれるのも嫌で……。
あの時に、俺のマンションの話、しなかっただろ?」
……確かに聞いていない。必要以上の情報を耳にしたら、もっと情報が欲しくなる。
それなら最初から何も知らない方がいい。
私は頷いた。でも、視線を合わせない様に、俯いたまま足元を見つめている。
私は俯いたままなので、先輩の表情はわからない。
「さっ、行くぞ」