心の鍵はここにある
先輩は、私が振り払った手を再度取り、私の顔を覗き込んだ。
まるで私が、自分の主張が通らなくて拗ねた子供の様だ。
そして先輩は、とても優しい眼差しで私を見つめている。
私が渋々頷くと、私の手を引いてゆっくりと歩き始めた。
先輩の手が私の指に絡み付き、所謂『恋人繋ぎ』になっているのに気付いたのは、駅の改札に近付いた時だった。
今更ながら焦って振り払おうにも、先輩の指がしっかりと私の手に絡み付き、離れない。
「電車に乗るまで、このままでいたい」
先輩の声に、熱がこもっている。
私は恥ずかしくて、すぐにでも手を外したかったのに、そうはさせて貰えない。
改札を通過して電車に乗り込むと、時間が早いせいかそれほどの混雑はなく、座席も空いていた。
二人並んで座席に座る。結局、握られた手はそのままだ。
恋人繋ぎは流石に恥ずかしくて嫌だと思い、何度か指を伸ばして先輩の手を離そうと努力したものの、先輩はその都度握り締めてくる。
「……電車に乗るまでって言ったじゃないですか」
「あれは混雑してたら里美を守れないから。こんなに座席に余裕があるならいいだろ?
……てか、里美の手、小さいな」
先輩の言葉に、視線を握られた手に向ける。私の身長は百五十五センチ。
先輩は、学生時代から更に身長が伸びていると思われるので、軽く二十五センチは差があるだろう。
そんな大柄な人の手と比べたら、私の手が小さいのは当たり前だ。
まるで大人と子供だ。
「……私はちびっ子ですから、これより大きいとバランス悪くなるし変ですよ。
それよりも早く手を離して下さいよ」
無駄な抵抗だとは分かっているものの、先輩に握った手を離してくれないか、声に出してみた。
嬉しいけれど、恥ずかしい。この気持ちを先輩に悟られたくなかった。だから、私の声色も堅い。
「里美はケチだなぁ。手を握るくらい、減るもんじゃないだろ?」
いやいや、神経すり減ります。
口には出せないけれど、無言の抗議で先輩を睨んでみるも、私の目力が弱いのか、先輩は益々顔をクシャクシャにして私の顔を見つめている。
「何その上目遣い、もしかして誘ってる?」
「そんな訳ないでしょうっ!」
「だよなー、こんな公共の場でそんな大胆な事、してくれる筈ないよなー」