心の鍵はここにある
彼女、納得出来てないみたいなんだよな。今の今まで女の影のなかった俺に彼女がいるって事に。
本当に、里美が俺の彼女なのかって。
里美は何も言わなくていいから、この場に一緒にいてくれないか?」
先輩の言葉に、正直戸惑いを隠せない。
始業時間前だから、そんなに時間は取られないだろうけれど、朝一番からこんな事……。
これから仕事があるのに、私のメンタルがやられてしまうに決まってる。
この人はそんな事にも気付かないの?
「あいつが里美に何か仕掛ける前に、牽制したいんだ。
他の奴がどうなろうが関係ないけど、里美だけは手出しさせない」
先輩の言葉が、咄嗟に理解出来ない。
……どういう意味だろう。
「……あいつ、職場も一緒で仕事は出来るんだけど、公私共にパートナーになって欲しいってしつこいんだ。
もちろんずっと断ってて今日に至るわけなんだけど、俺に近寄る女を片っ端から敵視して近寄らせないんだ。
最初の頃は俺に害がないから放っておいたけど、このままじゃ絶対里美に危害を加える」
……何それ。
要は、ストーカー気味な女にまとわりつかれているのか、この人は。
大学時代からの同級生と言う事は、藤岡主任とも同級生と言う事になる。
それとなく主任に聞いてみようかな。私の考えを読んだのか、先輩は口を開く。
「藤岡には余計な事、言わなくていい」
私は、首をすくめる。
先輩は再び私に座席に座る様に促した。先輩の隣に。
私は言われるがまま、先輩の隣に座った。
「始業時間の事もあるから俺が話をする。里美はそれに頷いてくれるか?」
私は頷いた。変な事に巻き込まれて遅刻なんて洒落にならない。
改めて時計を見て時間を確認する。ここから会社に行く時間を計算すると、二十分しかない。
先輩にその事を告げると、好都合だと言って私の手を握った。
この人は、スキンシップが好きなのだろうか。
程なくして、例の女性がコーヒーショップに現れた。
この暑い中でもきっちりとスーツを着て、バリキャリを絵に描いたようなその出で立ちに、私は怖じ気付きそうになるのを先輩の握ってくれている手の温もりで、何とか誤魔化した。
「おはよう、越智くん。やっと彼女さんに会わせて貰えた。
……本当に彼女なのかしら?」