心の鍵はここにある
週末、松山に帰省して、里美のご両親に挨拶に行くからもう、付き纏うのやめろよ」
「何言ってるの? こんな子の何処がいいの? 見た目なんて完全に私の方が…」
ゆりさんの声を遮ったのは、先輩の冷たい視線だ。
「……いい加減人を見た目で判断するの止めろ。
俺は十二年前から、里美の全てに惚れてるんだ。
見た目だけ取り繕って中身がそんなクズな女なんて誰も本気で相手にされないだろ。
あ、だからか。お前、高田部長の愛人やってるの」
その言葉に、私もゆりさんも固まった。
「部長の愛人の隠れ蓑にされるのも迷惑な話なんだけど。
これ以上俺達に迷惑かけるなら、証拠写真、メールでばらまくけど?」
先輩はそう言って、自分のスマホから、とある画像をゆりさんに見せた。
そこには、四十代後半と見られる落ち着きある男性と腕を組んでいるゆりさんの写真が映し出されている。
「それっ……」
みるみるうちに、ゆりさんの顔色が変わっていく。先輩の言葉を裏付ける証拠だろう。
「それから、この会話、ボイレコで音声録音してるから。
俺は仕事柄、ボイレコ持ち歩いてるの知ってるよな?
これは取引記録の為だけじゃない、お互いの身を守る為にもある。
だから下手な言い逃れはやめろよ?
……俺からの条件は、今後、俺達二人に関わるな。それが守れないなら、どうなるか。
良く考えろ。あと、公私混同はやめろ。社会人として見苦しいぞ」
先輩はそう言い捨て、私の手を引いてコーヒーショップから立ち去った。
振り返って見たゆりさんは、まだ席で固まったままだった。
先輩に手を引かれたまま店を出た私達。
思ったより早く話は済んだものの、内容が衝撃的で私はプチパニックを起こしている。
なので、先輩に何度も名前を呼ばれている事にも気付かなかった。
先輩は、過去にあの人と……。
「……み、……里美!」
突然耳に届いた先輩の声に、全身がビクっとなる。
「俺側のトラブルに巻き込んで申し訳ない」
コーヒーショップを出てすぐの路地裏に 連れて行かれ、先輩に頭を下げられた。
私のキャパは既にオーバーしている。
先輩が、あの女性と過去に男女の関係があった事。
これはまあどうでもいい事はないけど、今はどうでもいい。