心の鍵はここにある
暑いから冷たいのがいいか、汗が冷えるのを見越して熱いのにするか。
トッピングをどうしようか目の前の誘惑に心が躍る。
野菜の天ぷらや海老天、卵等、見ていると目移りしてしまう。
主任が到着する前に、何を食べるか決めておこうとトッピングの品を吟味していると、入口の引き戸が開き、藤岡主任が入って来た。
「お疲れ様です」
私は会釈して、主任に合図を送る。
「お疲れ様。座席ありがとう。何にするか決めた?」
藤岡主任は座席に座ると、私が汲んでいたグラスの水を一気に飲み干した。
喉仏が上下するのを眺めながら、首を横に振る。
「色々と目移りしちゃって……。主任は食べたいのは決まってますか?」
「うん、俺はざるの大。こう暑いと冷たいのがいいな。トッピングは……、どうしようかな」
「そうなんですよ。トッピングに悩んじゃって」
話しながら座席を立ち、移動する。
結局私は温かいかけうどんに決めたものの、うどんだけでは体力がもたないのでガッツリとトッピングの具材を頼むことにしたのだけれど……。
どれも美味しそうで、なかなか決められない。
こんな時に、やはり性格が出てしまう。
「野菜の天ぷらも捨てがたいけど、海老天の方が体力付きそうだな」
どうもこれは、さり気なく海老天を取る様に誘導されている様な気がする……。
そして、主任自身は温泉卵と唐揚げ、さつまいもの天ぷらを選んでいる。
「夏場はガッツリ食べろよ? ダイエットなんて、今時の子はしなくても十分だし。
多少肉付きいい方が、男は嬉しいものだからさ?」
……最後の一言は、主任自身の感想だと思うけど。
春奈ちゃんは、見た目スラっとしているので、私的には羨ましい体型だけれども……。
「春奈も、もう少しふっくらしてもいいんだけど。
いつもガッツリ食べるくせに何故か全然太らないんだよなぁ」
確かに金曜の夜、我が家でのご飯の食べっぷりは、見ていて気持ちいいくらい、よく食べていたな、春奈ちゃん。
あれで太らないなんて、羨ましい。
主任は私の分と自分の分を注文し、トレイに乗せて、勝手にトッピングでうどんの上に海老天とかき揚げを乗せていた。
「しっかり食べろよ?」
「はい」
乗せられてしまったので、残しません。
藤岡主任が私の分もお会計を済ませてくれたので、素直にお礼を伝えて座席に戻った。
先程主任が飲み干したグラスに水を注ぎ、自分のグラスにも少し水を入れ足した。
「「いただきます」」