心の鍵はここにある
割り箸を主任に渡し、主任が受け取って箸をつけたのを確認してから私もうどんに箸をつけた。
温かいうどんなので伊達メガネに湯気がつき、途端に視界が悪くなる。
私はメガネを外し、器の傍らに置いた。
うどんにふーふーと息を吹きかけながら、啜り上げる。
やはり、コシがあり美味しい。海老天も、衣がサクサクで病み付きになりそうだ。
水を飲みながら、うどんを食べ進める。藤岡主任も、美味しそうにうどんを食べている。
今日のランチミーティングは、きっと私の様子がおかしいのに気付いた藤岡主任の配慮だろう。
職場では話も出来ないし、会社の人に聞かれたくない話でもある。
私がうどんを食べ終わる頃には、藤岡主任もすっかり食べ終わっている。きっと煙草を吸いたいのだろう。手持ち無沙汰なのが、よく分かる。
「ご馳走様でした」
私は主任にお礼を言うと主任は口角を上げて、私に応えた。
回転率の早いお店らしく、ゆっくり座って話をする雰囲気ではなさそうなので、店を出て他の場所に移動する事に。
近場で話の出来そうな場所……。
昼から藤岡主任は近隣の営業所へ出張するらしく、手土産にドーナツを持って行くと言うので近場にあるドーナツ屋へ移動した。
八月の昼間の紫外線は、殺人的な量だと改めて思う。
陽射しはとても痛く、日傘がなかったら確実に腕は日焼けしているだろう。日焼けどころか、下手したら火傷かと言う位肌が赤くなり大変な事になる。
そのせいか藤岡主任も暑いけれどジャケットを羽織り、紫外線対策をしている。男性は日焼け止めクリーム、塗らないのだろうか。
ドーナツ屋に入り、持ち帰り用のドーナツを適当に選んでと言われ、今売れ筋の商品を選んでトレイに乗せる。
藤岡主任に、食後のデザートは別腹だろう? と、私の分も一つ選ばせて貰い、それは店内で食べるからと別にして貰う。
ドリンクも一緒に頼んで貰い、藤岡主任は会計を済ませると、座席に移動する。
藤岡主任はコーラを、私はチョコファッションとアイスコーヒーを頼み、座席で待つ。
ドリンクを店員さんが持って来てくれたので、改めていただきますと告げると、藤岡主任もコーラに口をつけた。