心の鍵はここにある
見た目の女子力はかなり低いけど、最低限の生活に関しては、それなりに女子力はあるはずだと思いたい。
今朝の先輩の言葉を改めて思い出した。
『十二年前からやり直さないか』
出来る事ならやり直したい。先輩に、想いを伝えたい。でも……。
十二年の空白は、お互いに、単に思い出を美化しているだけではないだろうか。伝えられなかった思い、私は初恋に執着しているだけではないだろうか。今朝のゆりさんみたいに、執着を好きだと言う気持ちにすり替えているだけではないだろうか。
先輩だって同様だ。
先輩だって、十二年の間に彼女が居なかった訳ではないし、不完全燃焼で終わった恋心に執着しているだけではないだろうか。
そう思ったら、今日、先輩の言葉に結論を出さない方がいいのかも知れない。
でも、もし本当に好きだと思ってくれているなら、今度こそはタイミングを逃したくない。
執着でも、勘違いでも……。
先輩を待ちながら、スマホのメッセージ通知を確認すると、丁度先輩からのメッセージが届いた。
『今から会社を出ます。里美はもう帰宅してる?』
先輩に返信をする。
『お疲れ様です。もう帰宅してます』
夕飯の事も書こうか悩んだけど、とりあえずは用件のみ。先輩からの返信は、すぐ届く。
『じゃあ今から向かいます。夕飯食べに行く?』
『いえ、簡単な物ですが用意してます。良かったらうちで食べませんか?』
私のメッセージに、先輩は……。
『デザート買って行く』と。
何だか気を遣わせてしまい申し訳ない気持ちになる。
先輩のメッセージに、よろしくお願いしますのスタンプを押して、テーブルの上を片付けて夕飯の支度に取り掛かった。
それからしばらくして、先輩がやって来た。
どうやら一度帰宅したのか、ラフなTシャツとチノパンに履き替えている。
約束通り、手土産にコンビニスイーツを持参して。
「遅くなって悪いな、その上夕飯まで……」
玄関先でスイーツを受け取ると、私は先輩を招き入れた。先輩も私の後に付いて入る。
洗面所で手を洗って貰い、その間に親子丼もどきをテーブルに運んだ。
「美味しそうだな。最近野菜をそんなに食べてなかったから嬉しいよ、ありがとう」
丼の中の野菜は、お世辞にも控え目な量とは言えない。