心の鍵はここにある
ただ先輩の食生活なんて知らないけれど、自炊せずに外食やコンビニ弁当ばかりだと、栄養は偏る。
特に野菜なんて、意識して摂取しないとなかなか食べないだろう。実家から送られてきた野菜、大活躍だ。
葉物野菜は季節的に傷みやすいので、こちらで購入しているが、冬場になると白菜も送ってくれるので、実家様様だ。
「先輩のお口に合うか分かりませんが……」
「そんなものは合わせるの。里美は心配しなくていい」
それは私の料理が不味いって事? それとも……。
「先輩、もしかして苦手な食材入ってました?」
恐る恐る聞いてみた。先輩は、瞠目している。特に驚かせる様な発言はしていない筈だ。
「……先輩?」
「あ、いや。嫌いな野菜はないけど、里美が気遣ってくれたのが嬉しくて」
……この人、こんな甘々な人だっただろうか。返事に困り、視線を逸らしてしまった。
そんな私に先輩は、早くご飯が食べたいと言うので、一緒に食事を始めた。
きちんといただきますと手を合わせ、右手に箸を、左手に丼を持ち、親子丼もどきを口に運んだ。
「具沢山の丼って、何だか得した気分になる。味もよく浸みて美味しいよ」
先輩の笑顔にドキッとした。咄嗟に返事が出来なくて、会釈をしてしまい、余計に笑われた。
そしてやっぱりキャパオーバーになってしまった私は、大急ぎで丼を掻き込む様に食べて、お約束の様にむせてしまい、先輩に背中をさすって貰う羽目になってしまった。
先輩の手の大きさや、隣に座って私の世話を焼いてくれる姿を意識しない筈はなく……。
顔の火照りは、むせ込んで涙目になっている事で誤魔化せるだろうか。きっと無理だろう。
「ほら、お茶飲むか?」
先輩から渡されたグラスを受け取ろうと手を伸ばすと、指先が、先輩の指に触れた。
「落とすなよ?」
私がしっかりグラスを持つのを確認してから、先輩はグラスから手を離す。
触れていた指先が離れていく。何故か、とても胸が締め付けられる。
もっと触れていたい。ふと脳裏によぎった感情に、戸惑いを隠せない。
「……里美?」
グラスを手にしたまま動かない私を不審に思った先輩が、私の顔を覗き込む。
先輩の声で我に返り、グラスの中の麦茶を口に運んだ。氷を入れてよく冷えた麦茶が喉を潤していく。