心の鍵はここにある

 プリンの容器を片付けて、テーブルの上にはジュースとグラスだけになると、徐ろに先輩は居住まいを正して口を開く。

「今日は嫌な思いをさせてごめん。中山の件は、俺のせいだな……。
 俺が高校時代に気持ちをはっきりと里美に伝えなかったせいで、中山を巻き込んでしまったから。
 俺の身勝手な言動で、里美を、他の子も傷つけていたんだよな。謝って済む話ではないけれど……、本当に、ごめん」

 先輩は、私に深々と頭を下げて謝った。
 私は先輩に謝られた所で、今日のゆりさんの件ははっきり言って無関係だ。
 なので謝られても困る。
 でも、今日のやり取りを隣で見ていて、なかなかの人だという事は理解出来た。
 証拠の写真やら今日の音声録音で、すんなりと退いてくれればいいのだけれど……。

「先輩の仕事に支障はないなら、私は別に何て事はないですから。もう頭、上げて下さい」

 私は先輩に声を掛ける。

「……あの席で言った事、嘘じゃないから。十二年前から、里美の事が好きだ」

 顔を上げた先輩は、真っ直ぐに私を見つめている。
 驚きで声が出ないのもあるけれど、先輩の視線に囚われて動けない。
 先輩は、きっと私が発する言葉を待っている。

 ……どれだけ、どれだけ私がその言葉が欲しかったか。
 今までの十二年間、心に鍵をかけて、見て見ぬ振りをしてきたこの気持ちが、報われる日が来るなんて思ってもみなかった。気が付けば、私の頬に涙が伝っていた。

 ……ねえ、先輩。もう、自分の気持ちに正直になってもいいですか?
 今後、ゆりさんみたいな人が嫌がらせで現れたとしても、先輩の事が好きだって、堂々と胸を張ってもいいですか?


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