心の鍵はここにある
基本、性格は凄く真面目な奴だから、五十嵐さんも真面目な子だし多分合うんじゃないかな」

 主任の言葉に春奈ちゃんは難色を示す。

「私はその人の事、知らないよね?
 何となく、里美さんが苦労しそうだからやめて欲しいんだけど」

「いや、知ってる奴だよ。俺の大学時代の友達だから。
 ほら、前に一度映画館の前で会ったアイツ、覚えてる?」

 ……何だか会話が私を置き去りにして勝手に進んでいる。
 私は、目の前に置いてある出汁巻に箸を伸ばした。

「あぁ、あの人……。でも、大丈夫かな。
 里美さん、今まで彼氏いなかったんなら、あの人はかなりハードル高そうじゃ……」

「案外、ああいう奴の方がいいって。俺の直感、当たるから、まあ見てなって」

 当事者になるであろう私を置き去りに、まだまだ話は続くのだろうか。
 でも、もしその人さえ了承してくれるなら、お願いするだけお願いしてみようか、あの話を……。

「……あの、その方は、今日私がいる事を……」

 私の言葉に、主任は力強く頷いて応えた。

「ああ、紹介したいコがいるって言ってるから」

 春奈ちゃんは、ちょっとこれは強引じゃないかと隣でブツブツ言っている。
 どんな人が来るんだろう。どうにも不安で仕方ない。

「今日の事、黙っててくれるってのは十分わかったけど、でもどうしても、五十嵐さんに何かしらしたくて。
 ……勝手にこんな場を設けて悪いとは思ってる。
 仮にその気がないにしても、そいつ、五十嵐さんと同郷だから、話は合うと思うんだ。
 気が合えば付き合えばいいし、同郷の知り合いが増えると思って気楽に構えといて」

 同郷と言う言葉に、私は顔を上げた。
 私の出身は四国だ。藤岡主任は確か私の二つ上だった筈。
 ならば、あの人と同い年……。まさか、ね……。

「その方は、ご出身は高松、ですか?」

 現在の私の実家は香川県の高松市にある。
 父が転勤族で四国内を転々としていたが、祖父母の住む愛媛県松山市に一時期お世話になっていた。
 松山出身なら……。

「あれ? 五十嵐さん高松だったっけ? あいつは松山出身だよ」

 松山出身との言葉に、胸が高鳴る。もしかしたら……。
 いや、期待はしちゃいけない。
 世間は広いんだから、ここに来るのはあの人だとは限らない。
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