心の鍵はここにある
先輩の唇が顔から離れると同時に瞼を開けると、再び先輩の唇が降って来た。
先程よりも長い時間唇が重ねられ、初めての事にパニックを起こしそうになるものの、温かくて柔らかな感触に意識が朦朧としそうだ。
先輩の腕の中にすっぽりと埋もれてしまうと、ずっとこうしていたくなる。
この幸せな時間を一度知ってしまうと、離れがたい。
キスだけで蕩けてしまった私に向かって、先輩は私の頬を撫でながら優しく囁いた。
「里美の事、これから大事にする。里美のペースに合わせてゆっくりするから」
私は幸せ者だ。
ずっと想い続けていた先輩と、やっと気持ちを通いあわせる事が出来たのだ。
「この部屋でこんな事してると、最後までしたくなるけど、里美は初めてなんだろう?」
先輩の言葉に、素直に頷く。
「心の準備も出来てないだろう?」
再び頷く。キスだけでこんなに蕩けてしまっている状態で、最後までは流石に恥ずかしいし、心も身体も準備なんて全くしていない状態だ。雰囲気に流されてしまいたくない。
「だから、今日はここまで。俺の理性を褒めろよ? 里美がその気になった時に、里美を頂戴?」
私の顔を覗き込むと、先輩はニコッと笑って頬に触れていた右手を私の頭上に持って行くと、軽くポンと撫でて、居住まいを正した。
「さてと、本題の話をしようか」
その言葉で我に返った。そうだ、話が逸れてしまったけど、それで先輩に来て貰ったんだった。
私は急いで先輩の腕の中から離れて先程座っていたテーブルの向かい側へと戻ると、先輩に笑われた。
「急に畏まらなくてもいいじゃないか」
まぁ、そうですが。私はグラスの中の炭酸ジュースを飲みたかったと言わんばかりにグラスを口にした。
「里美が居なくなってから、俺、かなり落ち込んでさ……。
守野に引越し先を聞いても睨まれるばかりで何も教えて貰えなくて。
結局里美との想い出のある松山に残るのが辛くて、大学でこっちに出て来たんだ。
それで、その……。中山や他にも一夜だけって子と……」
先輩の声が、段々と弱くなって行く。
先輩の黒歴史を自ら暴露しているのだから、仕方ないとは言え、やはり胸の内はスッキリしない。
「つまりは、色んな子と関係を持ったって事ですよね?」