心の鍵はここにある

『松山に到着しました。彼も一緒に来てくれてます。何時に何処で待ち合わせする?』

 送信して程なくして、母から返信が届いた。

『本当に彼氏いたの? お見合い断る口実かと思ってた! 十五時に大街道にある百貨店のライオン像前で待ってます』

 母からのメッセージの待ち合わせを修二くんに伝えると、それなら充分時間があるし、四人で集まる事なんて滅多にないから遊ぼうと言う事になり……。
 JR松山駅前にあるボーリング場に行く事になった。
 ボーリングだけでなく、色々な娯楽施設、そして天然温泉もあるそこは、丸一日居ても楽しめる。
 ホテルも近いので、お昼近くまでそこでボーリングをしたり、カラオケをしたり、食事もそこで済ませた。
 昼食を済ませ、十四時から結婚式場で打ち合わせのある修二くん達と別れて、私達は時間潰しに施設内を散策した。

 ホテルへのチェックインが十四時からなので、それまで束の間の二人だけのデートタイムだ。
 思えば、こうやって休日に二人で過ごすなんて、初めての事だ。
 しかも、二人が出会った松山で、こうやって一緒に居られるとは夢にも思わなかっただけに、今更ながら改めて先輩の彼女になれた実感が湧いてきた。
 そして相変わらず、私の右手は先輩の左手と繋がっている。

 繋がれた手を見つめていると、先輩は優しく握りしめてくれた。
 先輩と一緒にいるだけで、たわいもないひとときが、かけがえのない時間になる。
 本当に今、幸せだ。後は、うちの両親と祖父が先輩を受け入れてくれるなら……。
 見合い話がなくなれば、今度は先輩との今後をうるさくせっつかれるだろう。
 先輩に迷惑をかけてしまうけれど、適当に話を合わせて貰う様にお願いしなければ。

「……先輩、お願いがあるんですけど」

 身長の高い先輩を見上げると、先輩は逆に私にお願いをしてきた。

「里美、俺の事、いい加減先輩じゃなくて名前で呼んで?」

 そう言えば、再会したその日にも、名前呼びをお願いされたっけ……。
 でも、いざ名前で呼ぼうものなら、照れが入ってしまう。第一、何て呼べばいいんだろう。
 直くん? 直哉くん? いやいや、仮にも年上の人にくんは失礼だろう。
 直さん? だと、バレー部後輩の人達と呼び方が一緒だし……。
 やっぱり無難なのは、直哉さん……?
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