心の鍵はここにある
百貨店の館内にあるカフェに場所を移し、テーブルを挟んで両親の向かいに座る私と直哉さんを、二人がマジマジと見つめている。
「まさか里美が彼氏を連れて帰って来るとは……」
「ねぇ、連絡貰ってびっくりよね。てっきりお見合いが嫌だから嘘だと思ってた」
……散々な言われ様だ。私が反論しようとするのを、直哉さんが制した。
「実は僕も地元が松山なんです。
里美さんとは高校時代からの知り合いでして、当時、数ヶ月だけですがお付き合いさせて頂いておりました」
直哉さんの発言に、食いついたのは母だ。
「え? そうなの? じゃあ、あの当時、里美はバレー部のマネージャーしてたけど、バレー部の方かしら?」
「はい、そうです。当時、部長をしておりました」
母と直哉さんの会話を、父と私が見守っている。その後も母の質問に応える直哉さんを、父と母が優しく見つめている。今晩はこの逆で、私が直哉さんのご両親に挨拶すると思うと、手に汗をかいてしまう。
ある程度話をして、両親は納得してくれた様だ。そこで、お見合いを断って貰う様に話をすると……。
「その件は、私達はノータッチなんだ。
すまない。親父が勝手に話を持って来たから、私達も相手すら聞かされてなくて……。
今朝病院に行って、今日、里美が彼氏を連れて帰って来る事は伝えてるから、明日、二人で病院に行ってごらん。
親父も可愛い孫に無理強いはさせないから。その代わり親父が納得したら話は早いぞ」
父が初めて口を開いた。
そんな、両親すら見合い相手を知らないとは……。
私は開いた口が塞がらず呆然としていると、直哉さんは父に宣言した。
「分かりました。明日、病院に一緒にお見舞いに行かせて頂きます。
その時にもお願いするのですが、ご両親にも許可を頂きたいので申し上げます。
実は今、僕が住んでるマンションが、偶然にも里美さんの住むマンション向かいなんです。
学生時代、兄と一緒に住んでいたので間取りも二DKと広いので、良かったら一緒に暮らしたいと思ってます。
もし、お祖父様に許可を頂けたら、一緒に住む事をお許し願えますか?」
直哉さんの発言に、両親は笑顔で応えた。
「うちの娘で良かったら、宜しくお願いします。
恋愛と縁遠いと思っていたけど、地元もこっちなら安心して任せられるな、なあ母さん」