極上社長に初めてを奪われて、溺愛懐妊いたしました
「酔うどころか頭が冴えている」


そう告げて、千紘社長は夜空を見上げると軽く息を吐いた。そして、視線を私へと戻す。


「とりあえず一緒に駅まで歩こうか」

「はい」


私は千紘社長についていくように少し後ろを歩き始める。

二十一時を過ぎても街はまだ賑わいを見せていて、飲食店の前には人の姿が多い。その中を進んでいく千紘社長の歩くスピードが速くて、置いていかれないようについていく。

けれど、途中から駅とは反対の方向へと進んでいることに気が付き、目の前の背中に声を掛けた。


「社長。駅はあちらですよ」

「いや、いいんだ。ごめん、ちょっとついてきて」


駅には行かないのだろうか。

どこへ向かうのか分からないまま進んでいくと、だんだんと人通りが少なくなり、しばらくすると広い公園内の散策路のような場所に出た。すぐ近くにはライトアップされた東京タワーが見える。

もしかして千紘社長はこの景色が見たかったのだろうか。そう思うほど、さっきまで早かった歩くスピードが今はとてもゆっくりだ。
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