誘拐は激甘生活の始まりIII
杏菜はフィナンシェを口に入れ、天井から吊るされた豪華なシャンデリアを見上げた。

結婚など、まだダミアンに「愛してる」とも言ったことがない杏菜にとってまだ実感のないことだ。結婚をするならば、王家の人間と庶民という位の違いもある。しかし、今の杏菜にはもしも結婚するならダミアンがいいという考えもあった。

「まあ、結婚はまだ早いでしょ」

杏菜はそう言い、ティータイムに集中しようとする。その時、「そう!慎重に考えなくちゃ!」と明るい声が響いた。刹那、部屋のドアが開いてダミアンと同じブラウンの髪をした男性が入ってきた。しかし、ダミアンとは違って活発な雰囲気がある。

「あなたは……?」

首を傾げる杏菜に対し、オリビアは勢いよく立ち上がっていた。そして、「リオン様、どうかされましたか?」と言う。その名前を聞いて杏菜の中にある日のニュースが思い出された。

今から一年ほど前、クラリネッタ王国のリオンが王位を放棄するのではないかとニュースで報じられていた。リオンはダミアンの弟のため、王位を継ぐには他の国の王家に入るしかない。
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