モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
――寝てるのかしら。
広がる緑の上で、レジスの水色の髪が風でゆらゆらと揺れている。
私は覗き込むように、レジスの美しい寝顔をじっと眺めた。こんなに近くでレジスの顔を見るのは初めてだ。長い睫毛につやつやの肌……。あぁ、このままずっと見ていられそう。
そんなことを思っていると、急にレジスの目が開いた。
レジスの青い瞳が私の姿を捉えると、レジスは目を見開きがばっと起き上がる。
「猫!? ……お前、どこからきたんだ!?」
聞いたことのないレジスの弾んだ声が聞こえ、私は驚いた。いつものクールな態度とちがい、私を見る目はキラキラと輝いていて、どこかテンションが高いようにも見える。
「ほら、こっちへ来い。大丈夫。怖くない」
そう言いながら、私に手を差し伸べるレジス。
期待の眼差しにこたえるため、恐る恐る近づけば、レジスの大きな手で顎下を優しく撫でられた。あまりに気持ちよくて、おもわずゴロゴロと喉を鳴らしてしまう。
「……ここを撫でると、本当に喜ぶんだな。本で読んだことがある」
私の反応を見て、レジスは嬉しそうだ。レジスのこんな顔を見るのは初めてのことだ。
「俺は猫が大好きだけど、動物に嫌われやすいのか、いつも触ろうとすると逃げられる。……逃げずに近寄ってくれたのは、お前が初めてだ」
あのレジスが猫好きだったとは。人間にも動物にも興味なさそうなのに、なんだそのたまらないギャップ。
レジスの初めて見る表情が新鮮で、私はさらにレジスに歩み寄った。
レジスは私のモフモフな毛を触り、ひと際目を輝かせた。私が嫌な素振りを見せないからか、レジスは思い切った様子で、両手を伸ばし私を抱き上げる。
ちょうどレジスの顔が真正面に見える位置で止まると、レジスは私を見つめながらにこりと微笑んだ。
「お前、すごくかわいいな。それに……綺麗な瞳をしている」
その言葉に、私の鼓動が跳ね上がった。
猫の姿の私に言っているのは百も承知なのに、なんだかすごく照れくさい。人間の姿だったら、きっと顔をトマトみたいに真っ赤にしていただろう。
「今日はお前に会えたから、いい一日になりそうだ。……また会えるだろうか?」
「にゃあー」
イエスの代わりに小さく鳴くと、レジスはふっと嬉しそうに笑った。
いい一日になりそうなのはこちらもだ、とレジスに感謝していると、ふと芝生に転がっていたレジスのものと思われる時計が目に入った。昼休み終了まであと五分ほど。……まずい。三十分経ってしまう。私は急いでレジスの腕からすり抜けた。
「っ! どこに行くんだ!?」
立ち上がるレジスを尻目に、足早に倉庫へと戻り獣化を解く。
――あぶない。ギリギリだったわ。というか、レジスなあんな意外な一面があるなんて……反則でしょ!
思い出し、ひとりで顔を熱くしながら素早く服を着て、私も寮へ戻ろうと思い倉庫から出た。
すると少し歩いたところで、猫を捜しにきたであろうレジスとばったり遭遇してしまった。
「あ……」
レジスは私を見て足を止める。クラスメイトだがほとんど会話をしたことのない私たちのあいだに、気まずい空気が流れ始めた。
どうしよう。早速学園にいるところをひとに見られてしまった。でもレジスのことだし、私の停学事情なんて興味ないだろう。それより、今はこの場をどうにかしてやり過ごさなければ。
「こ、こんなところで会うなんて偶然ですね。どうかされました?」
「いや……白い猫を見なかったか?」
「猫? うーん。こっちにはきてないと思いますが」
「そうか……」
見るからにシュンとするレジスに、若干の申し訳なさを感じる。
「じゃ、じゃあ私はこれで」
逃げるようにレジスの横を通り過ぎると、突然レジスに腕を掴まれた。
驚いて振り返れば、レジスが私を凝視している。……まさか、獣化してたことがバレた!?
「な、なにか用?」
「……お前、名前は?」
「えっ?」
「悪い。同じクラスなのはわかってる。でも、クラスメイトの名前を覚えてなくて……」
同じクラスなことを覚えてもらっていただけでも十分だ。でも、いまさら私の名前なんて聞いてどうするんだろう。
「フィーナです。フィーナ・メレス」
「フィーナ……覚えた」
「あなたはレジス様、ですよね」
「……知っていたのか? 俺のこと」
「ええ。私、クラスメイトの名前は覚えるタイプなので」
冗談っぽくそう言って、私はレジスに笑いかけた。
「それじゃ、私は行きますね。レジス様も早く戻らないと、もう昼休み終わっちゃいますよ」
「あ、ああ」
軽く手を振り、レジスに別れを告げる。
握られた手首に熱を持ったまま、私はレジスとは反対方向へ去って行った。
広がる緑の上で、レジスの水色の髪が風でゆらゆらと揺れている。
私は覗き込むように、レジスの美しい寝顔をじっと眺めた。こんなに近くでレジスの顔を見るのは初めてだ。長い睫毛につやつやの肌……。あぁ、このままずっと見ていられそう。
そんなことを思っていると、急にレジスの目が開いた。
レジスの青い瞳が私の姿を捉えると、レジスは目を見開きがばっと起き上がる。
「猫!? ……お前、どこからきたんだ!?」
聞いたことのないレジスの弾んだ声が聞こえ、私は驚いた。いつものクールな態度とちがい、私を見る目はキラキラと輝いていて、どこかテンションが高いようにも見える。
「ほら、こっちへ来い。大丈夫。怖くない」
そう言いながら、私に手を差し伸べるレジス。
期待の眼差しにこたえるため、恐る恐る近づけば、レジスの大きな手で顎下を優しく撫でられた。あまりに気持ちよくて、おもわずゴロゴロと喉を鳴らしてしまう。
「……ここを撫でると、本当に喜ぶんだな。本で読んだことがある」
私の反応を見て、レジスは嬉しそうだ。レジスのこんな顔を見るのは初めてのことだ。
「俺は猫が大好きだけど、動物に嫌われやすいのか、いつも触ろうとすると逃げられる。……逃げずに近寄ってくれたのは、お前が初めてだ」
あのレジスが猫好きだったとは。人間にも動物にも興味なさそうなのに、なんだそのたまらないギャップ。
レジスの初めて見る表情が新鮮で、私はさらにレジスに歩み寄った。
レジスは私のモフモフな毛を触り、ひと際目を輝かせた。私が嫌な素振りを見せないからか、レジスは思い切った様子で、両手を伸ばし私を抱き上げる。
ちょうどレジスの顔が真正面に見える位置で止まると、レジスは私を見つめながらにこりと微笑んだ。
「お前、すごくかわいいな。それに……綺麗な瞳をしている」
その言葉に、私の鼓動が跳ね上がった。
猫の姿の私に言っているのは百も承知なのに、なんだかすごく照れくさい。人間の姿だったら、きっと顔をトマトみたいに真っ赤にしていただろう。
「今日はお前に会えたから、いい一日になりそうだ。……また会えるだろうか?」
「にゃあー」
イエスの代わりに小さく鳴くと、レジスはふっと嬉しそうに笑った。
いい一日になりそうなのはこちらもだ、とレジスに感謝していると、ふと芝生に転がっていたレジスのものと思われる時計が目に入った。昼休み終了まであと五分ほど。……まずい。三十分経ってしまう。私は急いでレジスの腕からすり抜けた。
「っ! どこに行くんだ!?」
立ち上がるレジスを尻目に、足早に倉庫へと戻り獣化を解く。
――あぶない。ギリギリだったわ。というか、レジスなあんな意外な一面があるなんて……反則でしょ!
思い出し、ひとりで顔を熱くしながら素早く服を着て、私も寮へ戻ろうと思い倉庫から出た。
すると少し歩いたところで、猫を捜しにきたであろうレジスとばったり遭遇してしまった。
「あ……」
レジスは私を見て足を止める。クラスメイトだがほとんど会話をしたことのない私たちのあいだに、気まずい空気が流れ始めた。
どうしよう。早速学園にいるところをひとに見られてしまった。でもレジスのことだし、私の停学事情なんて興味ないだろう。それより、今はこの場をどうにかしてやり過ごさなければ。
「こ、こんなところで会うなんて偶然ですね。どうかされました?」
「いや……白い猫を見なかったか?」
「猫? うーん。こっちにはきてないと思いますが」
「そうか……」
見るからにシュンとするレジスに、若干の申し訳なさを感じる。
「じゃ、じゃあ私はこれで」
逃げるようにレジスの横を通り過ぎると、突然レジスに腕を掴まれた。
驚いて振り返れば、レジスが私を凝視している。……まさか、獣化してたことがバレた!?
「な、なにか用?」
「……お前、名前は?」
「えっ?」
「悪い。同じクラスなのはわかってる。でも、クラスメイトの名前を覚えてなくて……」
同じクラスなことを覚えてもらっていただけでも十分だ。でも、いまさら私の名前なんて聞いてどうするんだろう。
「フィーナです。フィーナ・メレス」
「フィーナ……覚えた」
「あなたはレジス様、ですよね」
「……知っていたのか? 俺のこと」
「ええ。私、クラスメイトの名前は覚えるタイプなので」
冗談っぽくそう言って、私はレジスに笑いかけた。
「それじゃ、私は行きますね。レジス様も早く戻らないと、もう昼休み終わっちゃいますよ」
「あ、ああ」
軽く手を振り、レジスに別れを告げる。
握られた手首に熱を持ったまま、私はレジスとは反対方向へ去って行った。