モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
「遠慮するな。俺はお前の力になりたいんだ」
「そう言われましても……あ、じゃあ、ひとつお願いしてもいいですか?」
「もちろんだ」

 私はレジスを玄関まで連れて行き、サロンのポスターを見せて宣伝をすることにした。

「私、今日から占いサロンを始めたんです! なにか相談があったら、レジス様にも遊びにきてほしいなーって。愚痴を言いにくるだけでも、なんでもいいです! ……レジス様に悩みがあるかはわかりませんけど、よかったら」
「へぇ。おもしろいことをしているんだな。ぜひ今度顔を出そう。それに、今日初めて食べたがここの食堂の料理は絶品だった。この特典の裏メニューっていうのが、すごくそそられる」
「でしょう!? マルトさんの料理は世界一です! 裏メニューは絶対絶対食べてほしいので、がんばってシール集めてくださいねっ!」
「……ああ。がんばってみよう」

 マルトさんの料理を褒めてもらえたのが自分のことのように嬉しくて、満面の笑みをレジス様に向けると、レジス様はふいっと顔を背けて口元を手で覆った。……急にテンションが上がったから、暑苦しいと思われたのだろうか。

「……フィーナ、どうしてお前は俺に敬語を使うんだ?」
「え? レジス様っていうか、学園のひとにはみなさんに使うようにしています」
「なぜだ。お前は伯爵家の令嬢だろう。庶民相手でも、敬称をつけたり敬語で話すのか」
「私は伯爵家の娘といっても、本来はここへ通えるような人間ではなかったので……。身分とか同級生とか関係なく敬語が抜けないというか、もうくせになっちゃってるんです」

 エミリーの名前を、一度つい前世の馴染みで呼び捨てで呼んでしまい、エミリーの機嫌を損ねたことがあった。それから全員に丁寧な口調で話していれば、トラブルはないと思うようになったのもある。生徒全員の家柄を把握するのも不可能だし、あとから言葉遣いのことでいちゃもんをつけられても面倒だ。
 ……心の中では全員呼び捨てにしていることは、私だけの内緒だけど。

「先に言っておくと、俺はお前にそんな堅苦しい言葉を使われるような身分じゃない。くせを直すのはむずかしいとは思うが、お前さえよければ……レジスと呼んでくれないだろうか」
「レジス様のことをですか!?」
「……話を聞いていたか?」
「あ、ご、ごめんなさい。……レジス」
「……あとはその敬語が抜ければ、上出来だな」

 そう言うと、レジスは自分の部屋へと戻っていく。
 途中で私たちの様子を窺っていた寮生の令嬢何人かに声をかけられていたが、レジスは冷たい反応を返すだけで、相手にもせず男子棟へと消えていった。


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