モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
前途多難だと思っていたフィーナの占いサロンだったが、アナベルがサロンの話をほかの生徒にしてくれたようで、口コミを聞いたひとがおもしろがってくるようになった。それでもまだ少ないが、徐々に食堂にひとが増えていっているような気がする。マルトさんも、以前より料理を提供する人数が多くなったと喜んでいた。
 
「フィーナ! あなたってすごいわ!」

 何度目かのサロンオープン日。十九時になってすぐ、ノックもせずに扉が開かれ興奮君のアナベルが入ってきた。

「あなたの言う通り、自信を持ってマティアス様に話しかけたら、マティアス様が私のことを〝おもしろい子だね〟って……! それからは、向こうから話しかけてくれるようになったの!」
「そ、それはよかったです。……アナベル様の想い人は、マティアス様だったのですね」
「はっ! 私としたことが、つい嬉しくて口を滑らしてしまったわ……!」

 アナベルは私に指摘され、すぐに両手で自分の口を塞いだ。もう言い終わったあとなので、その行動はまったく意味を成さないのだが。それに、アナベルがマティアスを好きということはわかっていたので特に驚きもない。

「バレてしまったなら仕方ないわ。これからも私が恋の相談をするときは、全部相手はマティアス様っていうのを覚えておいてちょうだい」
「わかりました。応援してます。アナベル様」

 私が微笑むと、アナベル様は顔を赤らめながら、やっと椅子に腰かけた。
 小説ではアナベルはマティアスにかわいそうなくらい相手にされていなかったけど、今のアナベルの話を聞く限りこの世界ではちがうようだ。
 思い返すと、私が停学になる前も、思ったよりエミリーとマティアスの距離は縮まっていなかった気がする。関わらないようにしていたから詳しくはわからないが。
 もしかすると、マティアスとアナベルが結ばれるっ展開もありえるかもしれない。目の前にいるアナベルは少なくとも悪役には見えないし、なんだか健気で応援したくなっちゃう。

「今日はまたなにか相談ですか?」
「いいえ。今日はフィーナにお礼と報告にきただけよ。ほら、無事に悩みが解決したらシールがもらえるんでしょう?」
「あっ! そうでした! アナベル様にはシールを渡さなければいけませんね」

 私は机の端に置いてあるケースから、自作の猫のシールを一枚取り出しアナベルに渡した。

「これを三枚集めると、裏メニューっていうのが食べられるのね」
「そうです。でも意外でした。アナベル様は裏メニューにはあまり興味がないのかと」

 侯爵令嬢のアナベルが、食堂でご飯を食べている姿は想像がつかない。

「なかったけど、こういうのはせっかくなら楽しんだほうがいいでしょう。それに、食堂ってこの時間すっごく美味しそうな香りがするのよね。いつも外で料理人を呼んで晩餐を作らせていたから知らなかったけど、ここで食事をするのもたまにはいいかもしれないわ」
「ぜひっ! 食堂にアナベル様がいると華やかになりますしねっ」
「よくわかってるわねフィーナ! 私、あなたのこと気に入ったわ」

 アナベルは上機嫌で、私の手をぎゅっと握った。

「それと……ありがとう。私、この前ここに来なかったら、マティアス様と仲良くなんてなれなかったかも」
「いえ。私はあくまでお手伝いしただけで、動いたのはアナベル様ですから」
「動くきっかけをくれたのはフィーナでしょう? この私が感謝しているのだから、素直に受け取っておけばいいのよ!」
「……はい。ありがとうございます」

 私の返事を聞いて、アナベルは満足そうに手を離す。
 エミリーと逆で、悪役とされていたアナベルがいい子すぎて困惑する。私の中で、アナベルの好感度は爆上がりだ。

「じゃあ、また来るわね!」

 椅子から立ち上がり、アナベルは終始笑顔のままサロンを後にした。
 マルトさんのために食堂にひとを増やしたい気持ちと、学費免除のために開いたサロンだったけど、誰かの役に立てたと思うと私も嬉しくなった。
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