モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
次の日の昼休み。
 私は有言実行するため、倉庫へと向かった。中途半端に終わらせていた掃除の続きを終わらせてから、時間を見てレジスに会いにいくため獣化する。

 昨日、近々会えると言われたからか、心なしかレジスの表情は期待に満ちていた。その期待に応えるため、私はレジスの前に姿を現し、「にゃあ」と一声鳴いてみせた。

「シピ!」

 レジスは鳴き声に気づくと、軽快な声で私の名前を呼び駆け寄ってきた。久しぶりの再会がよほど嬉しかったのか、ひょいと私を抱き上げる。

「やっと会えた」
 ひげの周りを人差し指でゆっくりと撫でながら、レジスに慈愛のこもった眼差しをこれでもかというくらい浴びせられる。
 抱きしめられたり撫でられたり、たまにこちらからちょっかいをかけてじゃれ合ったり、昼休みの時間たっぷりとレジスに甘やかされた。ここまで構ってもらえると、猫としてまんざらでもなくなってくる。
 ひとりの女としても、レジスのこんな表情を独り占めできていると思うと――くすぐったいような、嬉しいような気持ちだ。
 自分で言った占い通りの結果だけど、私は少しずつレジスのことが気になるようになっていた。とはいっても、レジスが占いを頼んだ相手は〝フィーナとしての私〟ではなく、〝シピとしての私〟だ。獣化していない私の前でも、いつかこんな表情を見せてくれたらいいのにな……。
 そんな願望をひっそりと胸に抱えたまま、私はレジスと楽しい昼休みを過ごしたのだった。

 木曜日になった。今週二度目の占いサロンオープン日だ。
 今日もいちばん最初にやってきたのはアナベルで、またマティアスとの恋愛相談を打ち明けにきた。すっかり私とアナベルはいい関係になっている。たまに寮ですれ違うときも、アナベルから声をかけてくれるようになった。
 アナベルの影響か、取り巻きのカロルとリュシーも今ではサロンの常連になっている。ふたりはいつも一緒にやってきて、アナベルがマティアスの前だと照れてしまい、たまにそっけない態度をとってしまったりとドジを踏んでいることを報告しにくる。
 アナベルとマティアスがうまくいくよう、友人としてフォローしたいという相談を聞くたびに、このふたりは私のように嫌々取り巻きをやっているわけではないのだなぁと思った。

「フィーナ」
「あら、レジス。今日もきてくれたのね」

 本日最後のお客様はレジスだ。レジスはこの前のように、サロンを閉めるギリギリくらいの時間にやってきた。

「お前の言った通り、気になっている子に会えたんだ。すごいんだな。フィーナの占いって」
「それはよかったわ。またなにかあったらいつでもきてね」
「ああ。今日はそれを言いにきただけだ。今日もおつかれ。フィーナ」

 レジスは報告だけするとすぐにサロンを出て行こうとしたので、私は慌てて引きとめる。

「レジス! 忘れ物!」
「……忘れ物?」

 私はレジスの顔の前に、悩みを解決したひとへの特典である猫のシールをかざした。レジスはそのシールを見ながら、目をぱちくりとしている。

「無事に気になる子に会えたみたいだから。はいっ!」
「これが、三枚集めると裏メニューが食べられるシールか」
「そう。がんばって集めてね」
「……猫」

 シールを見ながら、レジスはぽつりとそう漏らす。

「かわいいな。これは集めたくなる」

 私からシールを受け取ると、レジスはシールを大事そうにポケットに入れていた生徒手帳に挟んだ。

「来週の火曜、またくるよ」

 倉庫に行くときはシピとしてだけど、ここではフィーナとしてレジスに会える。
 そう思うと、私は来週の火曜日が待ち遠しくなっていた。

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