モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
占いサロンを開始して、一か月半が経った。
 食堂にもサロンにも人が増え、すべてが順調にいっている。今まで関わることのなかった寮生同士が食堂で交流を持つようになったりして、寮は以前よりずっと活気づいていた。
 この調子でいけば、理事長が私に与えた〝寮生たちを盛り上げる〟という課題は無事にクリアしたといっていいだろう。

 そして、今日はサロンを開始してから初の出来事が起きた。
 アナベルがシールを三枚集め、ついに特典の裏メニューを出すことになった。食堂でカロルとリュシーと共に、アナベルは裏メニューが出てくるのを待ち構えている。

 あれからマルトさんと私で改良を重ね、ふたりでひとつの特製オムライスを作り上げた。卵は私のふわとろを活かし、チキンライスはケチャップと鶏肉をバターで炒めただけのシンプルなものだが、マルトさん特有のなつかしさを感じる優しい味に仕上がっている。
 ソースはデミグラスやホワイトソースなどの凝ったものも考えたが、結局定番のケチャップのみにすることに決めた。そしてそのケチャップで、裏メニューを頼んだひとにメッセージを書いて出すことにした。
 私はアナベルの恋が叶うように、オムライスの上にケチャップでハートマークを描いた。お皿にも〝ファイト!〟と応援メッセージを一言添える。こういうほんの遊び心も、食べてもらうひとに少しでも喜んでほしいという気持ちからだ。
 付け合わせは野菜ときのこのコンソメスープ。これは私がこの前、余った材料を使いキッチンで作ってみたものをマルトさんが気に入り、今日のメニューに加えてもらえた。

 このように裏メニュー用に改良はしたが、マルトさんが作る自慢のオムライスも私は大好きだったので、絶対に今後も作ってほしいという複雑な思いもあった。すると、今度そのオムライスは定番メニュー化することをマルトさんが約束してくれた。食堂にたくさんひとが来るようになり、〝美味しい〟という言葉を毎日聞けて、マルトさんも自信を取り戻したみたいだ。

「おめでとうございますアナベル様! こちらがアルベリク寮食堂の裏メニュー、マルト&フィーナの特製オムライスです。どうぞお召し上がりください!」

 私はアナベルのところに、出来たてのオムライスを運んだ。

「かわいい! ハートマークとメッセージまで書いてあるわ!」

 アナベルは早速、ケチャップで書いたメッセージを見つけうれしそうにはしゃいでいる。

「はい。アナベル様の恋愛成就を願って書かせていただきました!」
「もうフィーナったら! 食べるのがもったいなくなるわね。それと、ハートの真ん中にスプーンを入れてしまわないように気をつけないと」

 たしかに、せっかく描いたハートが割れると縁起が悪い。
 いい評価をもらえるかドキドキしながら、アナベルがオムライスを食べるのを見守る。

「……美味しい! 卵がふわふわのとろとろで、口の中で溶けるみたいだわ! それに、チキンライスも私が好きな味付けね。今まで食べてきたものはソースの味が濃かったり、チキンライスにも具がたくさん入ってるものが多かったけど、このオムライスはシンプルながら、味がひとつにまとまっていて絶品よ!」
「ほ、本当ですか!? よかったぁ!」

 アナベルから最高の評価をもらって、私は一安心する。マルトさんと作ったから自信はあったものの、ここまで褒めてもらえると思わなかった。
 目の前で美味しそうにオムライスを食べるアナベルを、カロルとリュシーは羨ましそうに見つめている。ふたりももうすぐシールが集まるので、ぜひ今度食べてほしいものだ。
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