モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
アナベルが裏メニューの特製オムライスを食べてから、食堂とサロンは一層にぎわいを見せるようになった。
 カロルとリュシーはあの後すぐにシールを集め、アナベルに続きオムライスを食べることに成功した。三人は〝オムライスが絶品〟という話をいろんな場でしているようで、寮生だけでなくアルベリクの生徒全員のあいだで裏メニューが話題となっているようだ。

 オムライスでなく、マルトさんの料理が美味しいという噂も今以上に広まり、食堂はかつてないほど人で溢れている。サロンがない日は私も積極的にキッチンやカウンターに立ち、マルトさんの手伝いをした。停学中というよに、学園にいたころよりも生徒とコミュニケーションをとっているなんて変な話だ。
 エミリーによって広められた停学に関する私の悪い噂も、もう誰も気にしていないようだった。

「やあフィーナ。久しぶり」
「マ、マティアス様!?」

 ある日、マティアスがサロンにやってきて私は驚く。
 
「寮生じゃないんだけど、いいかな?」 
「は、はい。どうぞ!」

 そう、マティアスはエミリーと同じく寮生ではない。なので、ここには絶対に来ないと思っていた。
 マティアスに会うのは停学になってから初めてのことだ。アナベルから飽きるほど名前を聞かされていたからか、あまり久しぶりな感じがしない。
 憧れだったマティアスとふたりきりなんてことは完全に初めてで、私は少しばかり緊張していた。

「まさかマティアス様がここに来るとは予想外でした」
「ここの食堂が話題になってて気になったんだ。アナベルが裏メニューのオムライスを絶賛していてね。いてもたってもいられなくて」

 マティアスからアナベルの名前が出る。
 ふたりが順調に仲を深めていることがわかり、私はなんだか自分のことのように嬉しくなった。

「そうなんですね。アナベル様はここのいちばんの常連ですから」
「だからか。君の話を最近よくしているよ。……ここって、どういう悩みをするひとが多いんだ?」
「うーん……やっぱり、恋愛相談が多いと思います」

 たまに成績が上がらない、とか、お菓子を食べるのをやめられない、などの相談もあるが、ほとんどが恋の悩みだ。アルベリクはいろんな男女が集まるだけあって、毎日あらゆるところで恋が芽生え、それと同じ数だけ悩みも生まれている。

「なるほど。恋愛相談か」
「マティアス様は、今日なにをご相談に?」
「それがほかのひとと同じで、恋愛相談なんだ」
「マティアス様まで!?」

 にこにこと笑みを浮かべながら、恥ずかし気もなく言うマティアス。
 ……どうしよう。聞くのがこわい。もしアナベルでない、別のひとの名前を出されてしまったら、私はうまくその相談に乗ることができるだろうか。
 占いに私情を挟むのはよくない。だけど、アナベルはサロンを開いてからいちばん通ってくれている常連だ。望まなくとも仲は勝手に深まるし、ひたむきにマティアスを思う姿を何度も見てきた。できることなら、この世界ではアナベルとマティアスが結ばれてほしい。

「えっと、内容はどういったものでしょう……?」

 言いながら、どうかマティアスの想い人がアナベルでありますように、と心の中で願った。



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