モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
「僕の好きなひとが、いつもは素直なんだけど肝心なところですごく不器用なんだ。早く次の段階に進みたいと僕は思うけど、今は彼女のペースに合わせるのがいちばんだと思って我慢してる。まぁ、そういう完璧すぎないとこもかわいらしくて好きなんだけどね」
「……は、はあ。そうなんですか」

 ひとりで上機嫌にぺらぺらと喋り続けるマティアスだが、いったい今の話のどこに悩みがあったんだ。自分で解決できているし、悩みっていうより――。

「あのマティアス様、今のはただの惚気話ですよね?」
「あ、そうだった? 無意識だったよ。誰かに恋愛話なんてするの初めてでさ。楽しくなっちゃってつい! あはは!」

 爽やかな太陽みたいな笑顔を見せるマティアス。見ているだけで、こちらまで笑顔になってしまう。
 それに、話の内容を聞く限り、マティアスの言っている〝彼女〟はアナベルのことだろう。言っている内容がカロルとリュシーが相談しにくることと似ているし、この前アナベルは「恥ずかしくていいムードなのに変なことを言ってしまうの!」と嘆いていた。
 無事にふたりが両想いということがわかりほっとする。付き合う前の甘酸っぱくて楽しい日々を過ごしているふたりを想像すると、微笑ましくなった。あとはこのまま何事もなくふたりが結ばれることを祈るばかりだ。
 最初は小説通りエミリーと仲よくしているマティアスを見て、マティアスはエミリーと結ばれるのかと思ったが、まさかその後アナベルがマティアスを射止めるとは。
 この世界のエミリーは性格悪いし、そうなるのも頷ける。エミリーのほうが悪役令嬢と言われてもなにも不思議に思わない。エミリーはマティアスを射止めることができなかったのだろう。……それとも、私が知らない間にほかに好きなひとができて、マティアスに興味をなくしたのだろうか?
 まぁどちらでもいいか。私としては、憧れのマティアスが女性を見る目がちゃんとあったことがうれしい。あのまま性悪エミリーの毒牙にあっさりやられるような男だったら、きっと幻滅していた。私が前世から抱いていた綺麗な思い出は、無事に守られたようだ。

「ねぇフィーナ。これってさ、悩みを自力で解決したことになる? 僕、シールを集めたいんだ。裏メニューを食べたいから」
「解決した悩みを話しにきただけですから、残念ですけどシールはあげられませんね」

 私は手に持ったものの出番のなかったタロットカードを、机の隅に置いた。カードの隣には、マティアスが欲しがっている猫のシールが置いてある。マティアスは物欲しそうにそのシールに目線をやった。

「はぁ。やっぱりそうか。残念。……王子特権で、裏メニューを食べられたりしないか?」
「そんなズルをしたら、アナベル様に告げ口しますからね」
「おっと、それは困るな。彼女はズルが嫌いだからね。嫌われるようなことはできない。……というか、君にはなんでもお見通しなんだな」
「ふふ。さあ、どうでしょうか」

 マティアスと軽い冗談を言い合いながら笑い合ってると、サロンの扉が開いた。

< 27 / 108 >

この作品をシェア

pagetop