モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
「私の顔がどうだったかは自分じゃわからないけど、べつに特別仲がいいとかじゃないわ。停学になってから初めて会ったし、久しぶりだから会話が弾んだだけよ」
「ああ。たしかに弾んでいた。俺と話しているときより声色が高かったし、気持ちが浮ついているようにみえた」
「……そんなつもりはなかったんだけど。レジスと話しているときだって、いつも楽しいと思ってるわ」
「俺とマティアスはフィーナから見たら同じってことなんだな。よくわかった」

 まずい。レジスがひとりで暴走している。絶対なにもわかってないし。
 じっと据わった目つきで見られ、まるで尋問を受けているかのような気分だ。

「……マティアスのことを好きっていうわけではないよな?」
「私が? ああいう王子様って感じのひとには憧れがあるけど、そもそもマティアス様は本物の王子様だし。好きとかじゃなくて、どちらかというと憧れのひとっていえるわね」
「じゃあ、フィーナの好きなタイプってどんなのなんだ」
「好きなタイプ? それもやっぱり、王子様みたいなひとになるのかしら。私、昔からずっと王子様って存在への憧れが強かったのよ。いつか素敵な王子様が目の前に現れて〝お手をどうぞ〟って手を差し伸べてくれる……そんな王道ラブストーリーみたいなこと、一度でいいからされてみたくて。きっと、どんな女の子もお姫様みたいな気分になれるんでしょうね。……これも好きっていうより、理想っていうほうが正しいのかも」
「……王子様、か」

 レジスは真剣な面持ちで呟く。考えごとをしているのか、それ以上なにも言ってくることはなかった。尋問タイムは終了したようだ。

「私の話は置いといて、今日はどうしたの? また新しい相談? それともシールをもらいに?」
「え? ああ。この前言った悩みが解決したんだ。ほら、気になる子があまり向こうから話しかけてくれないっていう。フィーナの占い結果通りに相手を信じて待つことにしたら、向こうから話してくれるようになった」
「それはよかったわね。悩み解決おめでとう。レジス」

 ……その悩み相談を受けてから、私はシピでレジスに会うときに、以前より多めに自ら「にゃー」って鳴くことにしたのよね。
 レジスにシールを渡すと、レジスはポケットから生徒手帳を取り出した。そして、中から集めていた二枚のシールを取り出すと、今受け取ったぶんを合わせて三枚のシールを机の上に並べる。

「わあ! ついにレジスも三枚集めたのね! 裏メニューゲットよ」
「……よしっ!」

 目の前でレジスが声を上げ、立ち上がり思い切りガッツポーズをしている。したあとに自分がやったことが恥ずかしくなったのか、誤魔化すようにコホンと咳払いをすると、冷静を装いながら椅子に座り直した。

「レジス、最近シールをすごく集めたがっていたものね」
「ああ。マルトに聞いたんだ。裏メニューは、〝フィーナの手料理が食べられる〟って」

 マルトさん、なにを言っているの!? ふたりで作っているから半分正解だけど、その言い方だとまるで私がひとりで作ってるみたいじゃない。

「だから……絶対集めたかったんだ」
「レジス……」

 レジスが私の手料理のためにシール集めに必死になるなんて思わなかったから、純粋にうれしい。
 さっきまで気まずい空気が流れていたサロンで、今はふたりとも顔を火照らせ俯いている。まるで私たちの周りに花が浮いているような、ほわほわとした空気が流れていた。

「じゃあ、早速頼んでもいいだろうか? その、裏メニューを」
「ええ。マルトさんに言って準備するから、レジスは出来上がるまで食堂で待っててくれる?」
「わかった」

 時刻は二十一時前。私は早めにサロンを閉めて、キッチンへと向かった。
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