モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
「マルトさん、今から裏メニューを作ってもいいかしら? レジスがシールを集めたの」

 本来なら、食事のラストオーダーは二十時半までだ。少し時間が過ぎてしまっているが、裏メニューに関してはイレギュラーなことが起きても仕方ない。

「ああ、構わないよ。作るのに時間もかからないし。……ん? レジスって、あの水色髪のイケメンくんのことか」
「そうだけど、それがどうかした?」

 マルトさんは食堂で待機しているレジスを見て、なにかを思いついたようだ。

「じゃあ今日のオムライス作りは、フィーナひとりに任せることにするよ」
「えっ!? どうして!? 私ひとりじゃ、あのクオリティのオムライスはまだ作れないわ!」
「いいんだよ。やれるとこまでやれば。あたしが食べたフィーナのオリジナルオムライスも、充分おいしかったしねぇ。あのイケメンくんは、クオリティより誰が作ったかのほうが大事なんだと思うよ」

 マルトさんに言われて、さっきレジスが言っていたことを思い出した。
『裏メニューは、〝フィーナの手料理が食べられる〟って。だから……絶対集めたかったんだ』
 ――マルトさんったら、最初からこうするつもりでレジスにあんなことを言ったのね。

 こっそり食堂にいるレジスをキッチンから覗くと、待ち遠しいのかそわそわとしている。そんなレジスを見ていると、早くオムライスをレジスに食べてもらいたい、という気持ちになった。

「わかったわ。ひとりで作ってみる。でも、いつもより裏メニューのクオリティが低いって周りに気づかれたらどうしよう……」
「大丈夫だよ。もう夜の九時だ。ラストオーダーは終わってるし、食堂にひとはそんなにいない時間だから、気にすることないよ」
「……それもそうね。よぉーし! がんばって作らないとっ!」

 私はエプロンをつけて袖を捲り、オムライス作りを始めた。マルトさんは隣でそばで片付けをしながら私の様子を見守ってくれている。
 失敗することなくオムライスは無事完成し、キッチンに美味しそうなにおいが広がった。

「はい、仕上げにはこれが必要だろう」

 完成したオムライスを見て、マルトさんはうんうんと頷きながら私にケチャップを渡してきた。どうやらひとりで作ったオムライスは、マルトさんから見ても合格点はもらえたようだ。
 ――レジスには、そうだ。これを描くしかないわね!

 私はケチャップで卵の上に猫のイラストを書いた。前世のメイドカフェなんかで見たことあるような、可愛らしい仕上がりになった。
 ほかにひとがいる前でレジスにこんなかわいいオムライスを出したら、きっと注目を浴びてしまう。でもマルトさんの言う通り、食堂にはほとんどひとがいなくなっていたので、その心配はなさそうだ。

「レジス、お待たせ! アルベリク寮食堂の裏メニュー、フィーナの特製オムライスよ。どうぞ召し上がれ」

 姿勢よく椅子に座っているレジスの前に、私は猫のイラストが描かれたオムライスを出した。
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