モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
この出来事をきっかけに、私は自分の前世を思い出した。嘘のような話だが本当だ。
頭の中で流れる記憶は、間違いなく、前世の日本人でオタク女子高生だったころの私だった。
女性向けの恋愛ライトノベルが大好きで、妄想が大好きな地味な女子高生。占いと料理が趣味という、女の子らしい一面も持っていた。いつ死んだのかは思い出せないが、最後に読んだ小説がなにかは鮮明に覚えている。
……だって、今私が生きているこの世界が、その小説の世界だからだ。
恋愛ファンタジーライトノベル『王子様の手をとって』。
愛されキャラの主人公エミリーが、正統派イケメン王子と結ばれるまでの学園生活を描く、甘酸っぱい胸キュンストーリー。私のようなぱっとしない地味女の憧れが詰まりに詰まった、お気に入りの一冊だった。
主人公のエミリーはかわいくて、ちょっと天然で、でも勇気もあって……私が彼女になれたなら、どんなに幸せだろうかと思っていた。
――そんな彼女が今、私の目の前にいる。
原作通りの茶色いセミロングの髪を揺らしながら、翡翠色の瞳で私を見つめている。
あまりの存在感と美しさに、私はおもわず息を呑んだ。
エミリーは小説の主人公だが、それなら私は……?
フィーナ・メレスというキャラクターの記憶を私は必死に思い出す。フィーナ……そうだ。私はいつもエミリーにくっついていた、ヒロインの取り巻きポジションの女の子だ。
そこまで出番もなく、キャラクター紹介でイラストもつけられていなかった。いわゆるモブに近い。私のような地味女にしては、名前のあるキャラクターに転生できただけでもがんばったほうだろう。
私はエミリーになれなかったけど、エミリーの友人になれるなんて光栄だ。このときは、本気でそう思っていた。でもまさか、フィーナがエミリーにくっついていたことにこんな経緯があったとは知らなかったけど。
「あなたがフィーナ? 私はエミリーよ。今日からよろしくね」
にこりと微笑むエミリーに、私は顔を赤らめる。
小説では明るくいい子で、誰からも好かれていたエミリー。きっと、彼女と一緒なら楽しい学園生活を送れることだろう。
そう思いながら、エミリーと共に入学式が開かれるホールへと向かった。すれ違うひとたちがみんな、エミリーの美しさに振り返る。なんだか、隣を歩いているのが申し訳なく思えてくるほどだ。
「きゃっ……!」
突然、エミリーが声を上げた。
私がぼーっとしているあいだに誰かとぶつかったようで、反動でよろめいたエミリーはその場に倒れこむ。
すぐにエミリーの体を起こすため駆け寄ろうとしたら、大きな影がスッと私を横切った。
「ごめん! 大丈夫?」
私より先にエミリーに手を差し伸べるその人物を見て、私は驚愕する。
なぜなら彼は小説のヒーローであり、このルミエル王国の第二王子、マティアス・フォートレルだったからである。
頭の中で流れる記憶は、間違いなく、前世の日本人でオタク女子高生だったころの私だった。
女性向けの恋愛ライトノベルが大好きで、妄想が大好きな地味な女子高生。占いと料理が趣味という、女の子らしい一面も持っていた。いつ死んだのかは思い出せないが、最後に読んだ小説がなにかは鮮明に覚えている。
……だって、今私が生きているこの世界が、その小説の世界だからだ。
恋愛ファンタジーライトノベル『王子様の手をとって』。
愛されキャラの主人公エミリーが、正統派イケメン王子と結ばれるまでの学園生活を描く、甘酸っぱい胸キュンストーリー。私のようなぱっとしない地味女の憧れが詰まりに詰まった、お気に入りの一冊だった。
主人公のエミリーはかわいくて、ちょっと天然で、でも勇気もあって……私が彼女になれたなら、どんなに幸せだろうかと思っていた。
――そんな彼女が今、私の目の前にいる。
原作通りの茶色いセミロングの髪を揺らしながら、翡翠色の瞳で私を見つめている。
あまりの存在感と美しさに、私はおもわず息を呑んだ。
エミリーは小説の主人公だが、それなら私は……?
フィーナ・メレスというキャラクターの記憶を私は必死に思い出す。フィーナ……そうだ。私はいつもエミリーにくっついていた、ヒロインの取り巻きポジションの女の子だ。
そこまで出番もなく、キャラクター紹介でイラストもつけられていなかった。いわゆるモブに近い。私のような地味女にしては、名前のあるキャラクターに転生できただけでもがんばったほうだろう。
私はエミリーになれなかったけど、エミリーの友人になれるなんて光栄だ。このときは、本気でそう思っていた。でもまさか、フィーナがエミリーにくっついていたことにこんな経緯があったとは知らなかったけど。
「あなたがフィーナ? 私はエミリーよ。今日からよろしくね」
にこりと微笑むエミリーに、私は顔を赤らめる。
小説では明るくいい子で、誰からも好かれていたエミリー。きっと、彼女と一緒なら楽しい学園生活を送れることだろう。
そう思いながら、エミリーと共に入学式が開かれるホールへと向かった。すれ違うひとたちがみんな、エミリーの美しさに振り返る。なんだか、隣を歩いているのが申し訳なく思えてくるほどだ。
「きゃっ……!」
突然、エミリーが声を上げた。
私がぼーっとしているあいだに誰かとぶつかったようで、反動でよろめいたエミリーはその場に倒れこむ。
すぐにエミリーの体を起こすため駆け寄ろうとしたら、大きな影がスッと私を横切った。
「ごめん! 大丈夫?」
私より先にエミリーに手を差し伸べるその人物を見て、私は驚愕する。
なぜなら彼は小説のヒーローであり、このルミエル王国の第二王子、マティアス・フォートレルだったからである。