モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
「あなたがフィーナ? 私はエミリーよ。今日からよろしくね」

 にこりと微笑む私を見て、初めて会った彼女は顔を赤らめた。……ふぅん。この子が私の付き人ね。
 ゆるいウェーブがかかったおへそまである白金の髪に、猫のような丸い紫の瞳。貧乏貴族の割には、お洒落なアルベリクの制服を着こなせている。見た目は悪くない。隣に置いておくには、恥ずかしくはないレベルだ。
 フィーナは最初から、私に憧れの眼差しをぶつけていた。私ほどの立場と美貌があれば当たり前なのだが、フィーナはあからさまだった。それは私を上機嫌にさせた。
 私は運もよく、入学式へ向かう途中に、偶然この国の第二王子であるマティアス様と接点を持つことができた。背も高く、王子という名に相応しいルックス。女性をエスコートするのもうまく、今のところ、私の婚約者有力候補といってもいい。

「マティアス様! ご一緒してもよろしいでしょうか?」
「ああ。構わないよ」
「ありがとうございます! ……フィーナはあっちで待機していて」

 私はそれから、マティアス様と仲良くなるために猛アピールを開始した。マティアス様に会う前は念入りにフィーナに髪を梳いてもらい、化粧もさせた。制服に埃ひとつついていないかを確認させ、完璧な状態でマティアス様の前に姿を現す。
 ふたりの時間をフィーナに邪魔されたくないので、いつも小声でフィーナにどこかへ行くよう命令していた。フィーナはそのたびに眉をひそめるが、言うことを聞いて去って行く。

「あれ、あの子は一緒じゃなくていいの?」
「はい。フィーナは男性が苦手で、あまり関わりたくないみたいですから」
「……へぇ。そうなんだ」

 寂しそうな顔をして去って行ってマティアス様の気を引こうなんて、フィーナったら生意気ね。あとで注意しておかなきゃ。
 それにしても、フィーナのような、私の後ろにいるだけの地味な女を気にかけるなんて、マティアス様はお優しい方だわ。
 私とマティアス様を羨ましそうに眺めているフィーナを見ると、私は優越感でいっぱいになった。

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