モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
 それからというものの、私はサロンもキッチンに立つことも辞めて、部屋に引きこもる日々を続けていた。
 マルトさんには体調が悪いと言い、寮のみんなにもなにか聞かれたらそう言ってくれと頼んでおいた。
 
 倉庫の修復は、完璧にするにはあと少しだけ作業が残っていたが、今でも理事長には褒めてもらえる状態にはなっている。
 寮だって、私は十分やるべきことはやった。これ以上盛り上げたところで私はどうせいなくなるのだから、がんばる意味を見出せない。
 ――もう、疲れた。

 エミリーからレジスの話を聞いて以来、私はあらゆることへのやる気を失っていた。レジスとも、何日も顔を合わせていない。
 レジスの顔を見ると、私はどう対応したらいいのかわからなかった。真実を確かめたいという気持ちと、知るのが怖いという気持ちが、私の中でぶつかり合い喧嘩している。
 決着がつく目処はなく、私はこうして現実から逃げて殻に籠ることしかできずにいた。

 今日もベッドで一日中布団にくるまっていると、部屋にぐぅーっと気の抜けた音が響いた。
 どんなときでも、お腹は空くらしい。しばらくまともに食事をとっていなかったせいか、腹の虫は元気よく鳴き続ける。

 結局私は遅めの時間帯を狙って、食堂を訪ねることにした。二十二時にもなれば、ほとんどの生徒が部屋に帰っていることが多い。
 今はマルトさん以外、誰にも会いたくない気分だった。
 それに何日もマルトさんの料理を食べていないから、マルトさんの料理が恋しくて仕方ない。この時間なら、まだマルトさんはキッチンに残っているだろう。迷惑をかけたことを謝罪して、厚かましいのは承知で、オムライス でも作ってもらえないか聞いてみよう。
 私はお腹をへこませて腹の虫の音を抑えながら、のそのそと起き上がると食堂へと向かった。

 食堂に行くと、厨房の方で食器を洗う音が聞こえ、私はマルトさんがいることを確信した。

「マルトさーん……っっ!?」

 呼びかけながらキッチンを覗き込むと、突然背後から腕を掴まれる。あまりの驚きで、背筋が一瞬凍りついた。

「フィーナ! ……やっと会えた」

 わけもわからないまま腕を引かれ、くるりと体勢を反転させられると、久しぶりに見る水色の髪が目の前で揺れた。
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