モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
「……レジス」
「体調は大丈夫か? 何日も顔を出さないからさすがに心配で……毎日ギリギリまで、ここで待たせてもらってたんだ」
「毎日ここで、私を……?」

 マルトさんに頼んで、食堂が閉まってもいさせてもらってたのだろうか。
 すると、食器を洗う音が急に止んだ。マルトさんは空気を読んでか、食堂に顔を出そうとはしない。

「なにか重い病いにでもかかったんじゃないかと思って……気が気じゃなかった。今ここにいるということは、もう平気なのか? 俺にできることがあるなら、なんでも言ってくれ」
「……ありがとうレジス。体調は平気よ。べつに、元々悪くなんてなかったから」
「……どういうことだ?」

 妙な緊迫感が、微かに厨房の灯りだけが照らす食堂に流れる。
 俯いたまま一向に目を合わせようとしない私のことを、レジスは怪訝に感じたようだ。

「フィーナ、様子がおかしいぞ。なにかあったのか?」

 その心配も、演技なのだろうか。明日になれば、教室でエミリーと笑いながら、私の話をするのだろうか。
 レジスのことを信じたいのに、そんなことばかり考えてしまう自分がいた。

 思い返せば、私は一日のほんの少しの時間しかレジスに会っていなかった。それなのにどうして、自分がほかの生徒よりレジスを知った気でいたのだろう。私だけが彼に好かれていると、思い上がってしまったのだろう。 

 一度抱いた疑念は、私の心を蝕むように、大きく穴を広げていった。
 信じられないのはレジスだけじゃない。私は自分を信じてあげられるほど、自分に自信を持つこともできなかったのだ。
 
「なんにも、ないわ」
「だったらどうして、俺の目を一度も見ようとしない?」

 無意識なのか、レジスの私の腕を掴む力が強まった。
 声色から、レジスの不安な気持ちや、そこに僅かに含まれる怒りが感じ取れた。
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