モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
 カフリース王国。ルミエル王国からは、少し離れた場所にある。俺はそこで第一王子として生まれた。
 将来、国を背負う王になるため、両親からは厳しく育てられた。いろんな勉強をさせられ、習い事も多かった。俺を甘やかしたのはロレンツォくらいで、気づけば俺はひとに甘えることのできない、鉄仮面のような人間に成長していた。

 十六歳になり、俺は父からルミエル国にあるアルベリク王立学園に入学することを命じられた。
 アルベリクはあらゆる国から入学希望者が殺到する名門学校と聞く。入学すれば学業はもちろん、婚約者や、将来の仕事相手など、様々な出会いが期待できるという噂もあった。
 ――そこで婚約者でも見つけてこいってことか。
 最初はそう思ったが、俺の思惑は外れた。

『これはお前がひととして成長するための課題だ。王になるには、ひとりでも多くの国民の気持ちに寄り添える人間にならなくてはいけない』。

 父に最初そう言われたときは、ピンとこなかった。
 課題? ひととしての成長? それがなぜ、アルベリクへの入学に関係あるのか。
 顔色ひとつ変えた気はなかったが、父は俺が理解していないことなんてお見通しだったのだろう。そのまま、俺をアルベリクに入学させる理由を話し始めた。

 まず父は、俺を一国の王子としてでなく、身分を隠し入学させると言い出した。アルベリクは僅かだが庶民も入学ができる環境にある。つまり、俺は貴族でもなく庶民として過ごすよう命じられたのだ。貴族のふりをしていると、社交界に誘われ、どこかで俺が王子だというのがバレる可能性があるかららしい。
 父は、俺が身分の低い位置からいろんな人間を見て過ごすことで、今まで見えなかったものが見えるようになると言った。そしてその経験は、いずれ王位を継いだときに、より多くの人間の心がわかるようになる手助けをしてくれると。

 最後まで話を聞き、俺は納得した。だから自国の学園でなく、わざわざ少し距離のある国の学園に通わせることにしたのか。しかし、留学生も多いならオリヴェタンと名乗れば王家と疑うやつがひとりやふたりいる気がするが……そこはうまくやるしかないな。
 生まれてからずっと、王家の息子として見られてきた。この先もずっとそうだと思っていた。
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