モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
 ――まさか俺が、庶民として過ごす日がくるなんて。
 嫌だとは少しも思わなかった。むしろ、楽しみにさえ感じていた。
 父の考えにも賛同するまではいかないが、だからといって反論もない。俺はアルベリクへの入学話を受け入れた。そして、今に至る。
 婚約者を捜せ、という名目でなかったことに、俺はホッとした。昔から、俺はあまり女性が得意ではなかったのだ。
 十六年間で、見た目や地位だけが目的で言い寄ってくる令嬢たちを死ぬほど見てきた。俺のことをなにも知らないで、挨拶のように〝好き〟だと言ってくる。
 物心がついたころには苦手意識が強まり、自分から女性に関わることはなくなっていた。
 ――学園でも、できるだけ関わらないようにしたいな。身分も隠さなければいけないし、大人しく過ごそう。俺は人間観察さえできたらそれでいい。
 そう思っていたのに、変な噂を流されたせいで、女子生徒が次から次へと寄ってくるようになった。
 これじゃあカフリースのときと同じだ。と思ったが、俺に大した地位がないことがわかると、二度と寄りついてこない者も多かった。庶民の立場になると、こういった変化が起きるのか。まぁ……俺の対応が、あまりにもそっけなかったせいもあるかもしれないが。
 
「えーっと……あなた、レジス様、ですよね?」

 今日もまた、一度も会話をしたことのない女子生徒が俺に声をかけてきた。

「そうだが?」

 見ればわかるだろ、さっさと用件を言え。
 口に出さずとも俺の意思が伝わるように、鋭い視線を彼女に向ける。彼女は白金の長い髪を揺らしながら、俺の睨みに気まずそうに視線を外した。

 ――彼女はたしか同じクラスの、いつもルメルシェ公爵令嬢の後ろにひっついている生徒だ。俺にも敬語を使っているが……見たところ、彼女も貴族の娘か。

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