モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
ルメルシェ公爵家の名前だけは、学園でよく耳にしていたので知っていた。そこの娘であるエミリーは、学園中の男子が〝かわいい〟と噂していたし、ルミエル国の第二王子であるマティアスとも入学早々から親交を深めているとのことだ。
エミリーは学園で注目の的になっていて、そして今俺に恐る恐る声をかけてきた彼女は、そんなエミリーといつも一緒に行動している。
噂によると、家同士に関わりがあるらしい。俺の仕入れる情報源のほとんどは、他人の事情が大好きな貴族たちの噂話だ。いつも黙って学園で大人しくしているだけで、求めずともあちらこちらでいろんな話を耳にする。べつに他人の話に興味はないが、何度も聞けば勝手に覚えてしまうものだ。
「あの、その、よかったら一緒にお話しないかな? と思いまして……」
しどろもどろな物言いで、視線は俺に向くことなくいろんな方向へ彷徨っている。
すぐにでもこの場を立ち去りたい、と思っていることが、見ている俺にまで伝わってくるほどだ。
態度と言っていることがまるで合っていない。俺は小さくため息をつくと、横目でエミリーの姿を確認した。
そこには席に座りながら、本を読むふりをして俺たちの様子を窺うエミリーがいた。俺はひとりで納得する。
彼女はエミリーに命令されて、俺に声をかけたのだということを。
本来、俺と会話をしたいと思ったのはエミリーのほうなのだろう。だが、いつもどんなやつにもそっけない俺の態度を知ってか、先に彼女に声をかけさせ様子見しようというところか。
そうすれば、仮に俺が冷たい態度をとったところで自分は傷つかずに済むし、会話ができた場合は自然と輪に入ればいいだけ。
エミリーは男が好きそうな、かわいらしく純粋な振る舞いをしておきながら、実はずいぶんと計算高い女だということは見ていれば俺にはわかる。
そして俺の目の前にいる彼女もまた、エミリーの本性を知っているはずだ。周りには、エミリーに憧れて自ら好きで取り巻きをやっていると思われているだろうが……実際のところはどうなのか。
「……悪いが、これといって話すこともない」
結局一度も目が合わないまま、俺はそう言い放つと彼女から視線を外し、教室の窓の外の景色を見た。
青い空に身を任せ、気持ちよさそうに流れる雲。存在を主張するよう照り付ける太陽。
「そ、そうですよね。……ごめんなさい」
こんなにも今日は快晴だと言うのに、俺と彼女の周りにはどんよりとしたすっきりしない空気が流れていた。
「フィーナ、なにをしているの?」
「エ、エミリー」
「嫌がっているレジスに無理矢理話しかけるなんて。……ごめんなさいねレジス。私の友達が」
あたかも自分は友人を注意しにきただけ、というように、エミリーは申し訳なさそうに眉を下げ謝ってきた。
返事もせずに、俺はまた目線を窓の外にやる。エミリーは俺を不機嫌にさせたのは彼女のせいだと思っているようだ。
「……ごめんなさい」
一礼して、エミリーに強引に手を引かれ去って行く彼女の後ろ姿をこっそり目で追えば、今度はエミリーに頭を下げていた。
……いやなことは断ればいい。誰かの言いなりで自分の意思と反する行動をとるなんて、滑稽だ。
貴族としての誇りはないのか、などと偉そうなことを言う気はない。でも、あれではただの使用人じゃないか。
このときの俺は、彼女――フィーナに対しても、その他大勢の令嬢と同じ感情を抱いていた。
興味の湧かない、つまらない人間だと。
エミリーは学園で注目の的になっていて、そして今俺に恐る恐る声をかけてきた彼女は、そんなエミリーといつも一緒に行動している。
噂によると、家同士に関わりがあるらしい。俺の仕入れる情報源のほとんどは、他人の事情が大好きな貴族たちの噂話だ。いつも黙って学園で大人しくしているだけで、求めずともあちらこちらでいろんな話を耳にする。べつに他人の話に興味はないが、何度も聞けば勝手に覚えてしまうものだ。
「あの、その、よかったら一緒にお話しないかな? と思いまして……」
しどろもどろな物言いで、視線は俺に向くことなくいろんな方向へ彷徨っている。
すぐにでもこの場を立ち去りたい、と思っていることが、見ている俺にまで伝わってくるほどだ。
態度と言っていることがまるで合っていない。俺は小さくため息をつくと、横目でエミリーの姿を確認した。
そこには席に座りながら、本を読むふりをして俺たちの様子を窺うエミリーがいた。俺はひとりで納得する。
彼女はエミリーに命令されて、俺に声をかけたのだということを。
本来、俺と会話をしたいと思ったのはエミリーのほうなのだろう。だが、いつもどんなやつにもそっけない俺の態度を知ってか、先に彼女に声をかけさせ様子見しようというところか。
そうすれば、仮に俺が冷たい態度をとったところで自分は傷つかずに済むし、会話ができた場合は自然と輪に入ればいいだけ。
エミリーは男が好きそうな、かわいらしく純粋な振る舞いをしておきながら、実はずいぶんと計算高い女だということは見ていれば俺にはわかる。
そして俺の目の前にいる彼女もまた、エミリーの本性を知っているはずだ。周りには、エミリーに憧れて自ら好きで取り巻きをやっていると思われているだろうが……実際のところはどうなのか。
「……悪いが、これといって話すこともない」
結局一度も目が合わないまま、俺はそう言い放つと彼女から視線を外し、教室の窓の外の景色を見た。
青い空に身を任せ、気持ちよさそうに流れる雲。存在を主張するよう照り付ける太陽。
「そ、そうですよね。……ごめんなさい」
こんなにも今日は快晴だと言うのに、俺と彼女の周りにはどんよりとしたすっきりしない空気が流れていた。
「フィーナ、なにをしているの?」
「エ、エミリー」
「嫌がっているレジスに無理矢理話しかけるなんて。……ごめんなさいねレジス。私の友達が」
あたかも自分は友人を注意しにきただけ、というように、エミリーは申し訳なさそうに眉を下げ謝ってきた。
返事もせずに、俺はまた目線を窓の外にやる。エミリーは俺を不機嫌にさせたのは彼女のせいだと思っているようだ。
「……ごめんなさい」
一礼して、エミリーに強引に手を引かれ去って行く彼女の後ろ姿をこっそり目で追えば、今度はエミリーに頭を下げていた。
……いやなことは断ればいい。誰かの言いなりで自分の意思と反する行動をとるなんて、滑稽だ。
貴族としての誇りはないのか、などと偉そうなことを言う気はない。でも、あれではただの使用人じゃないか。
このときの俺は、彼女――フィーナに対しても、その他大勢の令嬢と同じ感情を抱いていた。
興味の湧かない、つまらない人間だと。