モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
 しかし、夏休みが明けたある日を境に、俺のその考えは打ち砕かれた。フィーナに変化が起きたのだ。

「ねぇねぇ、最近のフィーナ嬢、なんかすごいわよね」
「一学期とは別人みたいよね。あんなにエミリー様にべったりだったのに」
「今やエミリー様が話しかけても知らんぷりだものね」

 その変化は、お決まりの噂話と化して俺の耳に届いてくる。今回ばかりは、俺も聞きながらうんうん、とおもわず頷いてしまいそうになった。

 フィーナがエミリーの取り巻きをやめたのだ。なんの前触れもなく。

 従順な犬みたいにご主人様に仕えていた彼女が、リードから解放されたように生き生きとしている姿がそこにはあった。
 誰の目も気にせず、ただ自分のしたいように動く。
 派手なことをしているわけでも、目立とうとしているわけでもない。
 新しい誰かとつるむこともなく、寧ろエミリーといたからこそあった交友関係もすべて捨ててひとりで行動し、側からみればひとりぼっちの地味な学園生活を送っているようにも見えるだろう。

 それなのに、フィーナは堂々としていた。楽しそうにしていた。
 しがらみに囚われず、我が道を進んでいる。
 そこに俺に話しかけてきたときの、おどおどした彼女の面影はもうどこにもない。
 
 俯きがちで、いつも行き場を彷徨っているかのような瞳は常に前を見据えていた。
 誰かの言いなりにならず、自分のやりたいことを、やりたいようにしていた。
 態度を急変させたことに腹を立てたエミリーが、ほかの生徒にどれだけフィーナの悪口を言いふらそうが、お構いなしといった佇まい。

 マイペースなその姿は――まるで猫のようだった。

 気づけば俺は、以前まで気にも留めていなかった彼女から目が離せなくなっていた。気になって仕方がない。フィーナ・メレスというひとりの令嬢のことが。
 これは決して恋などという学園時代ならではの甘酸っぱい感情ではなく、ただの興味だ。俺はそう思っていた。でも、そう思った時点でフィーナは特別だったのだ。
 なぜなら俺が誰かに興味を持ったのは、フィーナが初めてだったから。

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