モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
 気づかれない程度に、フィーナを目で追う日々が続いた。そんななかで、フィーナが学園を休んだ日があった。
 ――具合でも悪いのだろうか。前日まで元気そうにしていたのに。
 フィーナのいない学園は、俺にはとてもつまらなく思えた。
 昼休みになり、俺はいつも行っている裏庭のさらに奥へと足を運んだ。ここには少し近くに使われていない倉庫がある以外にはなにもないが、誰もこないので俺のお気に入りスポットになっていた。誰の目も気にせず芝生に座り、心地よい風を思う存分感じていられる。
 その日もそうやって過ごしていると、急に眠気が襲ってきた。昼休みが終わるまでにはまだ時間があったので、俺は寝転び目を閉じた。
 すると、しばらくして何者かの気配を感じ、俺はすぐに目を開ける。
 俺の目に飛び込んできたのは、なんとも愛くるしい白猫だった。

 俺は城の人間にすら誰にも言っていないが、猫が大好きだった。幼いころ、街で見かけた子猫にひとめぼれをしたのがきっかけだ。そこからこっそりと見つけた猫に餌をあげたり、本で猫の生態を調べたりするのにハマっていた。
 あの手触りのよさそうなモフモフした毛に触れてみたい。気の済むまでじゃれ合ってみたい……!
 しかし、俺のその願いはずっと叶うことがなかった。なぜか俺は、猫に嫌われるタイプの人間だったらしい。近寄ると逃げられ、撫でようと手を伸ばすものならシャーッと鳴き牙を露わにし、毛を逆立てて威嚇される。
 そんなことが続き、俺の猫への気持ちは、この先も一方通行なのだと若くして思い知らされていた。
 でも、今回は猫のほうから俺に歩み寄ってきたのだ。これは、俺が初めて猫を撫でるチャンスなのではないか。
 俺の予想は的中した。この白猫――後に、俺はシピと名付けるのだが、シピは俺が触れることのできた、最初の猫だった。
 俺の手で気持ちよさそうに喉を鳴らすシピを見て、俺は夢を見ているかのような幸福感で満たされた。
 初めてシピをこの手で抱え、その顔をまっすぐ見たとき、俺はこう思った。

「お前、すごくかわいいな。それに……綺麗な瞳をしている」

 思っただけのつもりが、つい声に出してしまうほど。
 吸い込まれそうなまんまるの紫の瞳は、俺を虜にするには十分だった。
 なにより――似ていたのだ。フィーナに。

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