モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
 シピに出会った直後、フィーナに出くわしたことは驚いた。シピが俺とフィーナを引き寄せたのではないか、なんて思ったりした。
 申し訳程度の会話をし、すぐに去っていこうとするフィーナの腕を、俺は無意識に掴んでいた。
 驚いて目をまんまるにして、こちらを振り返るフィーナを見て、俺はやっぱりシピはフィーナに似ていると改めて思った。
 
「な、なにか用?」
「……お前、名前は?」
「えっ?」
「悪い。同じクラスなのはわかってる。でも、クラスメイトの名前を覚えてなくて……」

 嘘だ。覚えている。
 緊張して、会話に困り覚えていないふりをしてしまった。

「フィーナです。フィーナ・メレス」
 知っている。
「フィーナ……覚えた」
とっくの昔に覚えている。
「あなたはレジス様、ですよね」
「……覚えていたのか。俺の名前」

 フィーナにとって、俺はエミリーとの嫌な思い出の中に登場した人物のひとりに過ぎないかもしれない。でも、フィーナにまた名前を呼んでもらえたことに、うれしさを感じていた。

「ええ。私、クラスメイトの名前は覚えるタイプなので」

 悪戯っぽく笑うフィーナに目を奪われる。以前俺と話したときは、気まずそうに視線を逸らしていたのに……。
 それはフィーナと出会ってから初めて見た、彼女自身の本当の笑顔だった。

 ――ドクン。

 心臓が大きく脈打つ。同時に、今まで感じたことのない感情が湧き起こる。
 フィーナが気になって仕方ない。頭の中がフィーナのことでいっぱいになり、笑顔は脳裏に焼き付いて、夢にまで出てくる始末だ。

 俺は恋に落ちてしまったのだ。クールで掴みどころがなく、女嫌いだと散々噂を立てられていたこの俺が。
 一瞬にして甘酸っぱい青春という沼に、ズブズブとハマっていった。

 十七歳の秋、俺は知る。恋に落ちるのはあっという間で、そして恋はいとも簡単に、ひとを変えてしまうということを。
 
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