モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
 会う回数が増えるようになって、確実に俺とフィーナは仲良くなっていった。フィーナも時折、俺のことを気にするような発言や、行動をしてくれるようになった。
 フィーナが好みのタイプだと言っていた、王子様のようなひと……マティアスと楽しそうに会話をしていたときや、俺がおにぎりを買い占めたことについて、フィーナにこっぴどく怒られたときはさすがに俺もへこんだ。俺も一応本物の王子であるというのに、フィーナが理想としている王子と自分では程遠い。自信を喪失し、シピに相談をしだすなんてマヌケなこともした。
 期待したり、落ち込んだり。これまであまり動かされることのなかった感情が、一気に動きだし大忙しになっていたが、それはそれで楽しかった。

 そんなある日、裏庭でいつもシピに会う時間にフィーナに会った。
 まるで、シピが人間になって俺に会いにきたような錯覚に陥った。
 お気に入りの場所で、好きなひとと過ごす時間は、永遠に続けばいいのにとすら思えた。
 何気ない会話ひとつひとつが、フィーナがいるだけで特別な言葉に聞こえる。
 俺の髪を揺らす風が、フィーナの髪も一緒に揺らす。そんな当たり前で些細なことが、俺たちは今同じ場所にいるということを、俺に実感させてくれた。
 当初の目的なんて、もう頭から抜けていた。俺がこの学園にきたのは、フィーナに会うためだと信じて疑わなかった。
 フィーナといると心が落ち着いた。気を張らずにいられた。

「……うーん。私がレジスの好きな子と似てるから、とか?」

 それを伝えると、フィーナからそう言われ、俺はシピと同じ紫の瞳を見つめ返す。

「そうだな。すごく似てる」

 ……似てるんじゃない。俺が好きなのは……フィーナだ。
 心の中で訴えながら、声には出せなかったこの言葉を、近い未来で必ず伝えよう。
 シピのようにふわふわとしたフィーナの髪を撫でながら、俺は自分が勇気を出せる日がくることを願った。

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