モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
「お話があるのだけど、放課後、時間あるかしら?」

 裏庭でフィーナに会ってから数日後、エミリーが俺に話しかけてきた。
 ――フィーナには言ったことがないが、マティアスがアナベルと親密になって以降、エミリーは俺にしつこく付きまとってくる。
 なにを企んでいるのか知らないが、大方俺がフィーナと仲が良いと聞いて、フィーナへのあてつけに俺に接触しているのだろう。自分ならフィーナから容易く俺を奪えるとでも思っているのだろうか。
 フィーナがいなくなって以降、エミリーの学園での人気は急速に落ちていた。
 少し乱れた髪もうまくなおせず、学園内の教室の場所さえまともに把握していない。思い通りにいかないと不機嫌になり、最初こそほかの取り巻きがついていたが、すぐにみんな離れていった。エミリーにとっても、フィーナがいなくなった穴は大きかったということだ。
 おまけに狙っていたマティアスはなめてかかっていた恋敵のアナベルに奪われ、プライドはズタズタだろう。
 それでもやはり、男の前での演技は一流だ。女子生徒に仲間外れにされていると被害者面し、か弱いところを見せつけることで、数人の男子生徒はエミリーに熱を上げていた。
 ……俺に付きまとわず、そいつらに頼ればいいのに。
 何度もそう思ったが、エミリーの執念は凄まじいもので、いくら冷たい対応をしてもめげずに追いかけ回してくる。今のように。

「断る。俺は忙しい」
「とても大事な話なの。放課後、二階と三階のあいだにある踊り場で待ってるから。絶対よ。」
「お、おいっ――!」

 承諾する前に走り去って行くエミリーの背中を見ながら、俺は肩を落とした。
 授業が終わればすぐ寮に戻りたいのに。エミリーのせいで、学園にいると疲労がすごい。
 無視をすることも考えたが、そのせいでもしフィーナになにかされたら困る。腹をくくって、俺は放課後、指定された場所へと向かった。
 エミリーがやってきたのは、教室に生徒がほとんどいなくなってからだった。強制的に呼び出しておいて、悪びれる様子もなく遅刻してきたエミリーに苛立ちが募る。
 
「……遅いぞ」
「あぁ。ごめんなさい。でも、誰かに聞かれるとまずい話だと思って」
「さっさと用件を言え」

 不敵に微笑むエミリーを見下しながら吐き捨てる。
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