モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
「レジスは裏庭にいる白猫の正体、知ってる?」
「……正体? というか、なぜお前がシピの存在を知ってるんだ」

 俺の後でもつけてきたのか。エミリーならやりかねない。

「細かいことはどうでもいいじゃない。その様子だと、やっぱり知らないようね」
「さっきからなにが言いたいんだ」
「あのね、あの白猫って――フィーナが獣化した姿なのよ」

 エミリーの口から、衝撃的な言葉が発せられ、俺の思考は一瞬停止した。
 ……獣化っていうのは、人間が動物の姿に変化すること。俺の国でも、獣化ができる人間は僅かだがいる。
 ルミエル国にくる際にルミエル国について調べたが、この国で獣化能力のある人間はほぼいないと聞いていた。
 ――フィーナは、獣化能力を持った人間だったのか?

「シピが……フィーナ……?」

 驚きの次に俺を襲ったのは、強烈なる羞恥だった。
 自分が今までしたことを思い返すと、顔がカッと火を噴きそうなほど熱くなる。
 俺はシピ……いや、フィーナをこの手で触っていたというのか!? ……もはや撫でくりまわしていた! あろうことか、この腕に抱いたりもしてしまった!
 だがフィーナのほうから俺に擦り寄ってきたり、太ももに乗ってきたことも……フィーナって、案外大胆だったんだな……嬉しいけど……。だがそのたびに、だらしなくデレデレしていたであろう顔を見られていたかと思うと、穴があったら入りたい。
 ……はっ!? ということは、俺がシピにフィーナの相談をしたあのとき……俺はフィーナ本人にフィーナのことを言っていたというのか!? 
 待て。だとしたらそもそも、サロンでの相談も同じじゃないか。フィーナは俺の言っている相手がシピだと最初からわかっていて……あああああ!
 もうだめだ。羞恥心で死にそうだ。顔から火が噴きそうではなく、噴火している。

「ちょ、ちょっとレジス? 落ち着いて!?」

 恥ずかしさのあまりひとりでジタバタし、頭を抱える俺を見て、エミリーが焦った様子で俺を宥める。
 エミリーの声を聞いて俺は我に返り、一度大きく咳払いをすると、いつも通りのクールな表情に戻した。
 
「悪い。取り乱してしまった。……まさか、フィーナがシピだったなんてな」

 エミリーの発言に対する俺の信用度は低い。でも、このことは不思議とすんなりと受け入れられた。
 言われてみれば、納得がいくことばかりだったのだ。
 突然現れた白猫。その後、突然現れたフィーナ。
 白金の毛に、紫の瞳。……似ているのではなく、本人だったのか。

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