モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
「取り乱して当然よね。まさか、フィーナがレジスを騙していたなんて思わなかったものね……」
「……ん?」

 騙していた、という言葉に違和感を感じる。

「私、使用人にメレス家のことを調べてもらったから、フィーナの獣化能力は事実よ。フィーナは隠しているようだから、私も誰にも言わなかったけど……レジスがフィーナと仲良くしてると聞いて、レジスには言わなきゃって思って。騙されたレジスがかわいそうだわ」
「……べつに俺は騙されていないが?」
「えっ? ど、どうして? 獣化のことを隠して、白猫の姿になってレジスに近づいたのよ!? 今もずっと隠し続けているようだし、レジスに嘘をついているじゃない!」

 ……たしかに嘘はつかれている。でも、俺だってフィーナに嘘をついている。
 ひとつは好きなひとをシピだと偽ったこと(これは本人に最初からバレていたが)。
 もうひとつは、俺は王子でなく、庶民のふりをしていること。

 嘘の数でいったら、申し訳ないが今のところ俺のほうがひとつ多いくらいだ。

「フィーナはきっと悪意があったわけじゃない。俺に言えない理由があったんだろう」

 フィーナのことだから、獣化した姿を俺に気に入られてしまったから、引っ込みがつかなくなったとかそういう理由な気がする。
 あまりに俺がサロンでシピに会いたいという相談をするから、いつも獣化して会いにきてくれたのかと思うと、健気で愛しさすら感じる。
 
「で、でもっ!」
「教えてくれてありがとう。だが、勝手にひとの家の事情を探るのは、あまり関心できないな」
「……っ!」

 思い描いていたのとちがう反応をしたからか、エミリーは不満気だ。どうせ、俺がフィーナに愛想を尽かすのを期待していたのだろう。
 シピがフィーナだったというだけで、俺がフィーナを嫌いになるわけない。むしろ……前よりもっと、好きになっている。
 フィーナは獣化してもかわいいんだな、なんて思ったりして、自然と口角が上がってきそうなくらいだ。

 ひとつ不満があるとしたら――エミリーでなく、フィーナ本人から直接聞きたかったというところだな。
 エミリーの言い方的に、これは勝手にエミリーが探りを入れて、俺に暴露したようだし。

 ――フィーナが自分から打ち明けてくれるまで、俺は知らないふりをしていよう。

 このときは、俺のこの考えがフィーナとの関係に亀裂を生み出すなんて、思ってもいなかった。
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