モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
 つまらない冬休みを終え、三学期が始まった。
 フィーナとの仲は良好だった。サロンの占いで一番最悪なカードが出たときは多少ショックだったが、そんな結果を笑い飛ばせる自分たちがいたことに満足していた。
 俺とフィーナなら大丈夫。なんの根拠もないくせに、なぜか自信だけはあった。
 フィーナとの関係がうまくいきすぎていて、俺はあぐらをかいていたのかもしれない。

ある日を境に、フィーナが食堂に姿を見せなくなった。
 おにぎりの販売も停止になり、サロンもずっと閉まっている。何人もの寮生が心配していたが、誰も理由を知らないようだ。
 フィーナが仲良くしていた寮母に聞くと、〝体調を崩している〟と言われた。
 俺は心配で仕方なかった。無理をしすぎて、体に異常がおきてしまったのではないか。冬に流行る風邪をこじらせ、何日も苦しんでいるのではないか。
 寮母に頼み込み、俺はギリギリの時間まで食堂にいさせてもらうことにした。もしかしたら、フィーナがひょっこりと姿を現すかもしれないと思ったのだ。
 俺の予想は的中し、食堂での待機を初めて数日後、フィーナが現れた。
 数日ぶりのフィーナを見た瞬間、頭よりも体が先に動く。俺に気づいていないフィーナの腕を、気づけば思い切り掴んでいた。
 驚いて振り向くフィーナ。ああ、やっと顔が見れた。……どことなく、やつれているように見える。やはり、相当具合が悪かったのか。
 心配して声をかける俺に、フィーナはわけのわからない回答をしてきた。

「体調は平気よ。べつに、元々悪くなんてなかったから」
「……どういうことだ?」

 フィーナは俯いたまま、なにも言わない。なにかあったのかと問えば、なにもない、と返される。だったら――。

「だったらどうして、俺の目を一度も見ようとしない?」

 話しかけてからずっと、よそよそしいフィーナの様子を見て、俺は勝手に焦っていた。
 会いたいと思っていたのは俺だけだったのか。フィーナにとって、俺はその程度の男なのか。
 まるで、初めて口をきいたころに戻ったみたいだ。こんなどんよりした空気が、再び俺たちを包むことになるとは思っていなかった。
 フィーナは俺の問いに答えずに、最近シピに会えたかどうかを唐突に聞いてきた。
 シピの正体がフィーナだということを知っていたが、とりあえず正直に会えていないことを伝えた。
 ……フィーナの態度がおかしいのは、遂に俺に獣化の話をしようとしているから、か?
 そんな考えが頭をよぎる。するとフィーナが今日初めて、真正面から俺を見据えた。
< 81 / 108 >

この作品をシェア

pagetop