モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
「そうよね。だって、あの白猫は私だものね」
「……フィーナ?」
「レジスは、知っていたんでしょう?」

 俺が獣化のことを知っているということを、フィーナが知っていた……? 
あまりの混乱と衝撃で、動揺してしまう。
 どういうことだ。頭がまわらない。フィーナは、俺にバレていることをいつから知っていたんだ?
 うまく返事ができず、口ごもるばかりの俺を見て、フィーナの俺を見る目がどんどん鋭いものになっていくのを感じる。
 スイッチが突然入ったかのように、フィーナは俺に怒りの気持ちをぶつけてきた。話を聞いていると、フィーナがなにか勘違いをしていることに気づく。
 このままではまずい。そう思い、俺は必死に弁解しようとした。ほかの誰になにを勘違いされたっていい。でも、フィーナにだけはされたくない。
 しかし、俺がエミリーの名前を出した途端、フィーナの表情があきらめのようなものに変わった。話を聞いてくれと懇願しても、それすら拒否されてしまう。
 加えてフィーナから、自身の退学をにおわすような発言があった。なんの話かと思い聞き返すと、フィーナの眉間の皺はさらに濃くなった。

「とぼけないで。どうせエミリーから全部聞いてるんでしょう? ……もう私に話しかけてこないで。私もレジスに近づかないから」
「どうしてそうなるんだ! フィーナ、俺の話を聞いてくれ。なにか勘違いを――」

 エミリーから退学の話など聞いていない。……ここまでエミリーの名前に拒否反応を起こすということは、エミリーがフィーナになにかよくないでたらめを吹き込んだのかもしれない。
 話し合わなければ。このままフィーナを行かせるものか。
 そう思うと、自然とフィーナを掴む力が強まった。フィーナはそれに気づいたのか、素早く俺の手を振り払った。――完全なる、俺に対しての拒絶だった。

 ショックすぎて言葉がでない。好きなひとに冷たい態度をとられることが、こんなにつらいことだったなんて……俺は今まで知らなかった。知らなかったから、今まで平気でひとの好意を無下にできていたんだ。

 フィーナは胸に手を当てて、心を落ち着けているように見えた。そして顔を上げると、俺に向けてこう言った。

「私、レジスのことを本当に――好きだったのよ」
「――!」

 突然の告白に息をのむ。それは、俺がずっとフィーナに言いたかった言葉だった。……いや、でも俺とは少しちがう。
 フィーナはこう言った。〝好きだった〟と。俺の気持ちは……まだ過去形になどなっていない。
 今にも泣きそうな顔をして、フィーナは俺の前から去って行った。
 追いかけたいのに、足が動かない。ただ呆然と、俺はその場に立ち尽くした。
 ――フィーナにとって、俺への気持ちは、もう過去のことなのか?
 十七歳の冬、俺は知る。恋が終わるのはあっという間で、そして――失恋の痛みはいとも簡単に、ひとを無力にしてしまうことを。
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