モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
「話がある」

 俺からエミリーに話しかけたのは、これが初めてのことだった。
 フィーナに突き放され、その後も会うことを拒否されていた俺だったが、まずはエミリーから話を聞き出すのが先だと考えた。
 ――俺はフィーナをあきらめない。まずは誤解を解かなければ。
 エミリーは俺に呼び出された理由を察していたようで、ふんっと鼻で笑うと、拒否することもなくおとなしく俺についてきた。
 俺たちはまた人気のない踊り場で向かい合う。以前とちがうのは、質問する側が俺だということ。

「フィーナが退学するっていうのは、どういうことなんだ?」

 まず、退学のことをエミリーから聞くことにした。

「どうもこうも、あの子の学費や寮費を出してたのは全部私の家なの。あの子の家は落ちぶれた伯爵家。アルベリクに通えるお金なんてあるわけなかった。私のお陰でフィーナはアルベリクに通えたのよ。学費を出すかわりに、私の世話をするという約束でね。……その約束を破ったのだから、フィーナはもうこの学園にいられないってわけ。自業自得よ」
「……フィーナとは、元々面識はあったのか?」
「あるわけないじゃない。あんな貧乏貴族」

 エミリーは嘲笑しながら吐き捨てるように言った。
 ……そういうことか。だからフィーナは最初、嫌々ながらもエミリーの取り巻きをしていたのか。 “約束”だったから。
 こういった取引は貴族の間ではめずらしくもない話だが、フィーナも最初はエミリーがここまで性格の悪いやつだとは思わなかったのだろう。
フィーナの家はアルベリクの高い学費を払えない。しかし、フィーナはエミリーの世話をし続けるくらいなら、退学のほうがマシだと踏んだのか。

「事情は大体わかった。じゃあ次の質問だ。……エミリー、お前はフィーナになにを吹き込んだ?」

 重要なのはこっちだ。俺はじろりとエミリーを睨みつける。
「さあ、なんのこと?」
「とぼけるな。話さないなら――こっちも手段は選ばない」
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