モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
「あのときフィーナがあたしの悩みを聞いてくれたのがきっかけで、今は食堂に生徒たちの笑顔がたくさん溢れるようになった。……本当にありがとうね。ずっと、フィーナにはお礼を言わないとって思ってたんだよ」
「そんな! マルトさんの協力があったから課題をクリアできたのよ! それに、マルトさんの手伝いをするの、すごく楽しかったわ。お礼を言うのは私のほうよ。マルトさん、今まで本当にありがとう。私はいなくなるけど、また絶対この食堂に――あ」

 マルトさんの想いを聞いて、こっちまで感極まり、口を滑らせてしまった。
 
「……はぁ。やっぱりね。そうなんだろうとは薄々気づいてたよ」
「えっ? そ、そうなの?」
「フィーナの様子を見てたらわかるよ。停学の理由も……なんとなく察してたからね。全然停学が解けたときの話や進級の話もしないし。これでもフィーナの倍以上生きてるんだ。大人をなめちゃいけないよ」

 ふふん、と自慢げにマルトさんは笑った。
 ……私が誤魔化せると思っていただけで、マルトさんにはお見通しだったのね。
 それなのに、今日までなにも言わずに知らないふりをしてくれていたんだ。

「ごめんなさいマルトさん。いずれ言おうと思ってたの。でも言えなくて……。私、退学が近づくにつれ、マルトさんとも、この寮ともお別れするのがどんどん寂しくなったの。だから、これ以上未練の念が大きくなる前に自分から離れようって……」
「大丈夫。言われなくても、フィーナの気持ちはちゃんとわかってた。なにも言わずに去っていくなら、あたしはそれを受け入れようと思ってたしね。でもこうやって、フィーナの本心が聞けてよかったよ。……やっぱり、真意がわからないままお別れになると、もやもやが残る。フィーナもそう思うだろう?」

 核心をつかれたような気がして、私はドキッとした。マルトさんには、私の心の奥底まで見抜かれている気がした。

「フィーナが部屋に閉じこもってた理由は、退学するからってだけじゃない。むしろ、いちばんの理由は――やっぱりあの水色髪のイケメンくんかい?」

 レジスのことを言われ、私は手に持っていたスプーンを置いた。

「……レジスとは、もう終わったの」

 そもそも、始まってもなかったのかもしれない。

「後悔するよ。フィーナ」

 今まで優しく、時には軽口を叩きながらも、私に寄り添う言葉ばかりをかけてくれたマルトさん。そんなマルトさんから、深刻な声色できっぱりと言われ、私は口をつぐんだ。

 黙る私に、マルトさんは心配そうな瞳を向けてくる。僅かに残ったオムライスに手をつけるタイミングもわからず、オムライスはどんどん熱をなくしていった。

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