モブ転生のはずが、もふもふチートが開花して 溺愛されて困っています
「たしかにむずかしい課題だね。寮母としていい意見を出してあげたいんだけど……だめだ。あたしもさっぱり浮かばない」
「うーん。何日か考えたら、いつか案が浮かべばいいんだけど……」

 でも、そんなゆっくりしている時間もないしなぁと思っていると、いつのまにかオムライスを完食していた。

「ごちそうさまでした。すっごく美味しかったわ。ねぇマルトさん、どうしてこのオムライスを定番メニューにしないの? 賄いで済ませるには、もったいないと思うわ」

 そう言うと、マルトさんは複雑そうな表情を見せた。そして、今度はマルトさんが悩みを私に打ち明け始めた。

「あたしは王宮で料理人をやる前は、街で小さなレストランを営んでたんだよ。そこの評判を聞きつけて、王宮の料理人に勧誘されてね」
「へぇ。マルトさんにはそんな過去があったのね」
「それから縁あって寮母の話をいただいたときは、以前自分が営んでたレストランみたいな場所にしたいって思ったんだ。やり方はあたしに任せる、と言ってもらったから。気合十分でこの寮に来たものの……アルベリクの学生は、貴族や王族がほとんどだろう? だから、料理も見栄えや高価なものを重視する学生が多くてね。あたしのやり方が通用しないことを思い知ったよ。幼い頃からそういう食事で育ってるから、仕方ないのはわかってるけど。学園の食堂が豪華なメニューが多いからか、寮で食事する生徒が最近は昔よりも減ってきて、寂しく感じるときもあるよ」
「……マルトさん」

 私はマルトさんのご飯が大好きだからいつも食堂に通っていたけど、言われてみれば、満席になっているところは入学してから一度も見たことがない。いつも決まった顔ぶれがちらほらといるだけだ。

「夕食は外食したり、学園の食堂で済ませてきたり。庶民の子も周りの目を気にしてか、食堂でご飯を食べずに部屋で食べられるパンやサンドイッチを買う子が増えてね。今じゃ、そっちのほうが人気かもしれない。フィーナが褒めてくれたこのオムライスは、レストランをやってたときにいちばん人気があったメニューなんだよ。自信も思い入れもあるんだけど、だからこそ――もしまったく食べてもらえなかったときのことを考えると、怖くてね」
「そんな! 絶対に人気が出るわ。みんな食べたことがないから、美味しさを知らないだけよ! ……私もなんだか寂しいわ。寮の食堂は、こんなに素晴らしい場所なのに」
「あはは。フィーナが毎日あたしのご飯を食べにきてくれるのは、すごくうれしく思ってるよ。寮の食堂を使う生徒が、もっと増えてくれたらいいんだけどねぇ」

 ひとが減った理由はマルトさんの話を聞いてだいたい把握できた。マルトさんのためにも、なんとかしてあげたいという気持ちが湧いてくる。
 今日食べたオムライスも自信作であるがゆえに、逆にマルトさんに不安を抱えさせている。大人気メニューにして、自信を取り戻させてあげたい。というか、私がまた食べたいから絶対にメニューに加えてほしい。

 綺麗に完食されたお皿を見ながら、マルトさんは微笑みながら続けて口を開く。

「ありがとうねフィーナ。停学になっていろいろたいへんだろうに、あたしの話を真剣に聞いてくれて。すっきりしたよ。誰かに悩みを聞いてもらうのはいいことだね」
「……!」

 マルトさんのその言葉を聞いて、私はあることを思いついた。

 私は知らなかった。いつも笑顔で料理を作っていたマルトさんがこんな深刻な悩みを抱えていたことを。
 もしかしたら、マルトさんのように誰にも言えないで悩みを抱えているひとは、ほかにもたくさんいるんじゃないだろうか。
 アルベリクの生徒はプライドが高いひとが多い。寮生は留学生や、王都に住んでいない庶民も多く、慣れない場所での生活にストレスを抱えるひとも多いだろう。あと、色恋の噂も絶えない学園だ。恋愛の悩みだって、ここではそこら中に溢れているにちがいない。
 気軽に誰かに相談できるような場所があれば、そこへ足を運ぶ生徒が増えるかもしれない。
 私は前世で趣味で占いをやっていた。タロットカードの知識があるし、この世界でも占いというものは人気がある。悩みを占いで解決に導くサロンを――ここ、食堂に作るのはどうだろう。
 うまくいけば、食堂に訪れる生徒を増やすことができる。これなら、理事長が言っていた寮生を盛り上げるという課題にも当てはまる――。

「これだわ!」

 椅子から立ち上がり、私はガッツポーズをしたあとマルトさんのほうへ身を乗り出す。

「マルトさんの悩みと私の悩み、協力して一緒に解決しましょう!」

 驚いた顔で私を見つめるマルトさんに、私は満面の笑みでそう言った。
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