ミスアンダスタンディング
「ミイナ?えっ、ちょーかわいいんですけど!?」
「確かに。想像より遥かに可愛い名前。ますます殺意芽生えた」
「はぁ?意味分かんないんすけど」
なんで殺意なんか芽生えられなきゃいけねえんだ。
眉根を寄せる俺を他所に、朋美さんは身体を前のめりにしてズイと顔を寄せてきた。
「で、顔は?」
「…はい?」
「だーかーら!ミイナちゃんの顔!写メとかあるでしょ?見せてよ」
「え、あたしも!あたしも見たい!」
興奮気味にグイグイと顔を寄せてくる二人から逃げるように上半身を少し仰け反らせる。
「ないです。あっても見せません」
「えーっ!なんで!ケチ!」
「ケチで結構」
虫を払うようにシッシッと手を振れば、観念したのか萩野ちゃんは詰めていた距離を戻す。その様子を横目で見送りながら、水滴が滴り出したグラスを手に取った。
口に含んだビールをゴクリと飲み込んだタイミングで、枝豆を口に運んでいた萩野ちゃんが再び話しを切り出した。
「空大くんってほぼ毎週日曜日は彼女と会ってるんでしょ?」
「…そうだけど?」
「ただでさえ長く付き合ってるのにそんなに会ってて飽きないの?」
日曜どころか時間があれば常にみぃの家に行っている俺からしたら、そんな質問は愚問でしかない。
会えないと会いたくなるし、いくら会っても結局会いたくなる。好きだったら普通そういうもんだろ。一概には言えないとしても、俺はそうだ。
そもそも飽きるって、なに?
よく分かんねえ。
「好きなのに飽きるわけないじゃん」
「うっわー…真顔で惚気ですかぁ…」
「これだからリア充ってムカつくよね~」
ね~、と声を合わせてグラスを傾ける二人を交互に見る。
萩野ちゃんは今まで付き合ってきた人と長続きした事がないらしく、朋美さんも同じような感じだ。
二人とも彼氏が出来たかと思えば一ヵ月後には別れている、みたいなパターンはもう何回も見てきた。
ちなみに朋美さんはついこの間、彼氏と別れたばかり。付き合った期間はたったの二週間。何がなんでも短すぎると思う。
「朋美さん、最近までリア充だったじゃないすか」
「はぁーん?!あんな付き合いが充実してるなんて口が裂けても言えないわよ!」
「…なんで別れたんですか?」
俺ばかり聞かれるのも癪だし、ちょっと聞いてやろう。
そんな軽い気持ちで聞いたそれに、まさか自分が苦しめられる事になるなんて、思いもしなかった。