秘密事項:同僚と勢いで結婚した
(…キスされて何ともない顔なんてできるわけない…!)
顔を見れば無意識に唇へと視線を移してしまいそう。今更ウブな感じも出したくない私は、ただ家事が忙しくて頑張ってますアピールをすることだけに尽力した。
「洗い物は俺がやるから。」
食べ終わり、立ち上がった穂高くんの横でテレビ台をハンディーモップで拭き始めた。実は朝起きて一度掃除したため、全くホコリなど無いのだけれど…。
「? 葉山?」
(もう掃除し尽くしたってぐらいに掃除しちゃったなぁ…。)
「……葉山ー?」
(んー、次はテーブル拭いて…あっ、食器洗いすればいいのか!)
なんて考えて膝立ちから床に手をついて立ち上がろうとすると…。
「……李。話聞いてる?」
「もっ……っ……」
顔を覗きこまれ、唐突に名前を呼ばれた私は唇を震わせながらパクパクと数回、口を動かした。
「下の…名前…」
「思えば葉山、もう穂高だし。いつまでも旧姓で呼ぶのは変かなって」
「……ッ…」
耐えられないかもしれない。
「……むり…」
「何が?」
「………心臓、おかしくなりそうだから…」
「………」
床にヘタリと座り込んだまま、私は赤い顔がバレないように舌を向き続けた。
おかしいと思われるだろうか。
つい最近友人から夫になった人相手にこんなにもドキドキして、全く意識してなかったはずなのにキスひとつで動揺して。
「……ねぇ…穂高くん…」
「?」
一番近い男友達だったから、何でも知ってるなんて思い込んでた。