秘密事項:同僚と勢いで結婚した
人気のない廊下を歩いていくと、ようやく資料室に辿り着いた。
穂高くんに領収書の提出を急かすべく、ドアノブに手をかけて開けようとした時…。
「私、ずっと穂高さんのことが好きで…!」
夫に告白する女性の声が聴こえてきた。
(え…? いったいこれは…どういう…)
「付き合ってください…!」
なんでこんな現場に遭遇しているんだろう。
少し状況の理解に時間を要し、やっとのことで冷静になった私はその場から立ち去るのではなく、聞き耳を立てた。
最低なのは重々承知の上だ。
人の告白現場に聞き耳を立てるなんて。
でも穂高くんがなんて答えるのか気になって仕方がない。
この聞き耳を立てている姿を他の人に見られないか不安になりながらも、私は穂高くんの返答をじっくりと待った。
「……穂高さんの優しいところ好きです。」
熱烈なアプローチ。どれだけ好きなのかを話す女性を可愛らしく思えているあたり、自分は少しおかしいのかもしれない。
(……普通、夫が告白されてたら気が気じゃないよね。)
私と穂高くんは勢いで契約結婚をした。
お互いが恋愛的な意味で好きなわけじゃない。
愛なんてない。
愛してもいなければ、愛されてもいない。
この間したキスだって、ワインで気分が盛り上がったからしただけで、特に深い意味もなさそうだし。
夫は夫でも『不倫だ!』と妻が訴えるわけでもない。
ノリでプロポーズして、OKもらって、一緒に住んで。
私がとやかく言う資格なんてないのだ。