秘密事項:同僚と勢いで結婚した
深いため息をつくと、私は気が散るのを防止するために折衷案(せっちゅうあん)として彼を彼自身のデスクに追いやろうと試みた。
「……集中してやりたいから営業部で待ってて」
「………わかった。」
割と本気モードな声のトーンで伝えると、彼は少しだけシュンとした表情を作り、椅子から立ち上がる。
(……よし、これで集中できる…)
そう思い、張り切ってキーボードに手を伸ばすと、『コトッ』と机と硬いものが打つかる音が聞こえた。
「あめ玉。空腹を紛(まぎ)らわすのにちょうどいいかなって」
あぁ、そうだ。
こういう優しさが友人として付き合っていた時、とても居心地が良いと感じていた。
「……もも…味。好きだよな?」
一瞬、自分の名前が呼ばれたのかと思って心臓がドキリとする。
パッケージにはピーチ味と書かれているのに。『日本語で言うな!』と喝を入れたくなった。
「あり、がと……」
でも飴をもらったことは素直に嬉しいので、胸の奥がキュゥキュゥと締まっていることを悟られないように私はお礼を伝える。
「……葉山。」
「っ…なに?」
「がんば」
「……うん…」
そう言って去って行く彼を見送り、私は貰った飴を口に放り込んだ。
糖分が染みて、少しだけ疲労回復効果を感じる。
舌の上で転がして、じわじわと広がる甘みを味わうと同時に、じわじわと広がる自分の熱に気づかないフリをしながら私は仕事に取りかかった。